第3章 帽子の似合う君。
「謹んでお供致します、白雪幹部」
「そう来なくっちゃ…じゃあ中也。私の大切なお嬢さんを迎えに行こうか」
帽子を深く被り直し、コートがふわりと翻った。不適切に笑った菊乃はちらりと中也の顔を覗き込むと頭を優しくポンポンと撫でる。
「中也、君帽子似合ってたよ。また私に見せてはくれないかい?」
「わ、分かりました…?」
中也は菊乃からいきなり頭を撫でられるとは思っておらず、驚いたように肩が跳ねた。白く細い女性らしい指先が頭から離れて行く時、何故か残念に思えたのは内緒である。照れ臭さを隠すように顔を引き締めて紅葉はこちらから来るであろう案内を勤しんだ。
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「菊乃姐さん!あぁあぁ、私の愛しい主様!」
「おやおや…久しいね紅葉。益々美人になり幹部の仕事も方について来た見たいで安心した。師である私もとても鼻が高いよ」
「私はそんな…寧ろ遠く、こちらまで御足労を願い嬉しゅうござりんす」
紅葉は鮮やかな着物姿であり幹部としての貫禄もあったが、菊乃の顔を見た瞬間甘える少女のように抱き着いた。しかしもう既に紅葉の方が身長的に上の為、菊乃の身体はすっぽりと埋まってしまう。背中を撫でて、お互いにお疲れ様。と労いの言葉を掛ける菊乃にぽっと頬が赤く染まり紅葉は綻んだ。後ろに控えていた中也は唖然として紅葉を見ていたが、見てはいけないモノだと瞬時に理解して背を向けた。
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「矢張り喫茶店と云えば珈琲だねー…まぁ餡蜜にも惹かれたが」
「おや、菊乃姐さんは餡蜜を食したいんかえ…私が頼もう。菊乃姐さんと半分こじゃ」
「それじゃあ紅葉が好きなモノを頼めないのでは?」
「私は構わぬ、菊乃姐さんが喜ぶ姿が見たいゆえ…全ては菊乃姐さんの為じゃ」
「私は嬉しいけどいいのかなー…それで、中也はどうするんだい?」
おしながきを見つめて、悩む中也が視界に入る。値段の事を気にしているのなら全て私が支払うから気にしなくていいと菊乃は伝える。それでも一番安いモノを注文しようとする中也に、菊乃は苦笑いを浮かべた。
「先程の注文をなしにして、この店で一番美味しい和菓子と抹茶を三人前頼む」
「えっ!」
「ふふ、中也が畏まるゆえ…菊乃姐さんが意地の悪い事を云うておるわ」