第2章 全員揃わないのですが。
「あの、間違ってたらごめんなさいね。もしかして安倍先生かしら?」
形のいい眉を下げ、ちらっと僕の方を見る京美人さん。
困り顔も美人だなぁ、とついガン見してしまった。おっと、いけね。セーラー服が似合いそうなんて妄想してる場合じゃなかった...!
頭の中の佐野君が、お前マジで変態だな、と僕をお尻を蹴り上げたところで思考が帰ってくる。頭の中の僕!きゃいんっ、じゃないよ!
「あ、はい!」
ここへ何をしに来たか思い出せ僕っ!
テンパる僕をくすくす笑い、緊張しないで?と宥めてくれる。あっ、優しい世界。
「学園長からお話は伺っておりますのよ。孫の担任だと」
んえ、孫?孫ォ!?
うふふと笑うその人はどう見ても二十代、多くみても三十代前半。とても孫がいるようには見えない。
信じられない、と呟けば良く言われますわ、と笑われた。
「ここで話すのもなんですから、ウチにいらっしゃらない?ふふ、ウチと言っていいか分からないけれどね」
行きましょ、と手招きされ着いて行く。
入り口の管理人さんに頭を下げ、先行く女性。カラコロと鳴る下駄は一層彼女の美しさを引き立てる。
あーでもやっぱり、セーラー服着たら似合いそうだなぁ。
女性との会話を続け、歩みを進めて行くにつれ、かなり奥まったところまで来た。
こ、こんなに奥にあるの?!
不安でドキドキと鳴り止まぬ心音が、彼女に聞こえてしまっているんじゃないかと錯覚するくらい緊張してきた。
「ここ、二階が食堂でしょう?食費が浮いてありがたいのよ。出て行くのが惜しいと思えるほどにね」
助かるのよね、旦那様がかなり食べるからと笑ってみせる彼女。
ん?そういや、楽さんって謹慎が解けたのに学校に来てないって、祖父母と暮らしてるって...。
「え、あ、もしかして...」
彼女は大きく〈封呪〉と書かれた部屋の前で立ち止まり、扉に手をかけて振り返った。その笑顔の美しさたるや。
「お初お目にかかります、安倍先生。わたくし、九十九 空澄羅(あすら)と申しますの。楽の祖母になりますわ」
うふふ、とまるで悪戯が成功したと喜ぶように微笑む彼女。
「ぅえぇー?!やっぱりー?!」
この驚愕の事実に、きっと僕の顔は凄いことになっているんだろう。なんてことだ!こんな美人さんに醜態を晒すハメになるなんて...。本当にツイてない。