第18章 8月 Ⅴ
片付けをしなきゃいけないから、お願いねと言われては断る事など出来ない。
普通なら数秒で登り切るだろうに、ゆっくりゆっくり足を進る。
青峰の部屋はすぐわかった。
ドアを開ける前にノックをしてみたが、返事はなく室内で動きがある気配もない。
『青峰君、お邪魔します。』
一応断ってからドアを開けると、バスケ雑誌や筋トレ道具が散らかっていた。
『タイガと一緒だ。』
それは自分の幼馴染の火神の部屋にそっくりで、思わず笑ってしまう。
「んだよ、他の男の名前で起こすな。」
ベッドに座り大きな欠伸をしながら不機嫌そうに青峰は言った。
じーっと自分を睨む様に上から下まで黙って見ている彼に、アリスはどうしたものかと言葉を探す。
「似合うじゃねぇか。いいぜ。」
『ユカタって初めて。』
その言葉に青峰は嬉しそうな顔をする。
「んじゃ行くか。」
『行く?』
「祭り。」
アリスの大きな目が一際大きくなり、キラキラ嬉しさを零す。
青峰の母親に見送られ二人で外へ。
ギラギラだった太陽は傾き、どこからか祭囃子が聞こえてくる。
折角浴衣なんだから、と下駄と巾着も借りたアリスはすっかり上機嫌。
最初こそ歩き方がぎこちなかったが、すっかりそれにも慣れスキップでもしそうな勢いだ。
『青峰君はやく!はやく!』
「ガキかよ。」
急かす様に青峰の手を取ったアリスに、言葉とは逆に彼も楽しそうに笑う。
ポツポツと見え始めた提灯の明かりや、屋台の匂い、子供達のはしゃぎ声。
何の祭りなのかはアリスには分からないが、そこがとても楽しい場所だという事はわかる。
道路の両サイドに立ち並ぶ屋台を見ては喜び、お神輿とすれ違えば喜ぶ。
たかが町の小さな夏祭りでこんなに喜ぶならもっと他にも連れて行ってやればよかったと青峰は思っていた。
『ねぇねぇアレ!あの魚はなに?』
「お前、金魚すくい知らねぇのか?」
『あれが!』
名前は知っていたがやった事がないと言うアリスに、じゃあやるか?と聞けば今日一番の笑顔になった。
並んでしゃがみ込み、紙で出来たポイを手にする。
そうなるだろうと思っていたが、アリスはすぐにそれを破ってしまい悔しがった。
しかし、青峰の方は何匹もすくい上げ屋台の親父は苦い顔。