第17章 8月 Ⅳ
やる気なく欠伸をしながら頭をかいたり、だらし無くTシャツが捲り上がる事も気にせず中に手を突っ込む。
桃井のお説教を聞き流しているのは明らかだ。
怒る桃井を今吉は宥めながら、さり気なく青峰に練習に顔を出せと話す。
なんだか自分だけ酷く場違いな所にいる気がしてアリスはそっと外に出ようとした。
「ッおっと。どこ行くんや。」
アリスの腕を掴み止めようとした今吉を青峰は睨み付けた。
「そう怖い顔すんなや、何もせぇへんって。お前がちゃんと練習に来るんやったらなぁ。」
これがアリスまで一緒に連れて来た本当の理由だったらしい。
「ほな、また明日。」
ヒラヒラ手を振って今吉は青峰家を出て行く、アリスのキャリーバッグを持ったまま。
それに気が付いたアリスは青峰と桃井に頭を下げて、慌てて彼を追いかけた。
『ちょっと、ちょっと待って下さい。』
「んー?」
それ、私のバッグ!と慌てて追いかけて来たアリスに、すまんすまんと全く反省の色はない。きっとこれもワザとなのだろう。
「聞いてもええ?」
『なんです?』
「実際のところ、青峰とどうなん?」
『お友達、ですかね。』
時間を取らせてしまったお詫びにこのまま家までバッグを運ぶと今吉は言った。
住宅地をガラガラとキャリーバッグのタイヤが回る音を響かせて歩く事に抵抗があったアリスは、正直なところ今吉の申し出は嬉しかった。
彼女の背丈に合わせたそれは、今吉が持つと地面にタイヤがつかない。
その分、全ての重さを持ち上げて運ぶ事になるのだが、彼は軽々とそれをこなしていた。
「ホンマにそれだけなん?」
この人には下手な誤魔化しは通用しないと察したアリスは、仕方ないか、と本音を話した。
確かに昔、子供の自分は『ダイキくん』が大好きだったこと。たぶん、それが自分の初恋だったこと。
しかし、今の青峰が過去の初恋相手とあまりにも違い過ぎて重ならない事。
『それに私はもうバスケット選手を好きにはならないと思うんです。』
「もう?」
やっぱりそこも見逃してはもらえない。
今吉ならば話したところでそれを誰かに言いふらしたりはしないだろう。
むしろ自分だけが持つ武器にする為に隠すタイプのはず。
『元彼がバスケやってたから。』