第17章 8月 Ⅳ
かしーな、とアリスの手から半ば強引に持ち手を取り上げた今吉に、そう言う事じゃないんだけど、と言おうとしたが言えない雰囲気。
ほな行くで、と歩き出してしまった今吉をアリスは仕方なく追いかけて行く。
『さつきちゃん、桐皇の人ってみんなこんな感じなの?』
そんなチームのマネージャーなんて大変極まりないのではないだろうか。
「もう慣れちゃったからね。」
アリスが何を言いたいのか察した桃井も苦笑い。
そんな二人の会話が聞こえているだろうに、何も気が付かないふりの今吉はむしろ楽しそうにも見えた。
インターホンを押しても返答はなく、桃井は仕方がないとドアに手を伸ばす。
鍵はかかっておらず、開いたドア。
玄関には大きな靴が脱いだままの状態で転がっていた。
「ちょっと大ちゃん!いるんでしょ!」
ここで待っていて、と今吉とアリスを玄関に残し桃井は当たり前に青峰家に上がって行く。
幼馴染はどこでも同じなんだな、と自分と火神のそれが重なり思わずアリスは笑ってしまう。
「この状況で笑うちゅーことは、アリスちゃんはそうゆう気持ちはないっちゅーことか。」
『なんの話ですか?』
「いや、嫉妬とかせぇへんのかな、って話。」
この状況のどこに嫉妬すると思ったのだろうか。
「なんや青峰が可哀想になってきたわ。」
『可哀想?』
「でも、そう言う事なら。」
グイッと体が近付き、わざわざ体を屈めてアリスの顔を覗き込む様に視線の高さを合わせた今吉は、ギロっとした目を開いて真っ直ぐに彼女を捉えた。
「ワシと付き合わへん?」
どこに?何に?とキョトン顔のアリスの大きな目の中に、殺気立った猛獣が飛び込んで来た。
それに気が付いた今吉は、ひらっとアリスから離れた。
「んだよ、人ん家の玄関で盛ってんじゃねぇよ。」
「ちょっと大ちゃん!」
今吉先輩にそんな言葉遣いしちゃ失礼よ、と桃井は青峰の背中を叩く。
まるで子供を叱る母親みたいだ。
それに言われた今吉は「なんのことや?」の一言。
今更青峰の口が悪い事を咎めるつもりは全くないらしい。
とりあえず今日は本当にただのサボりなのかを確かめに来たと今吉は言った。
「そりゃワザワザどーも。」