第16章 8月 Ⅲ
「Taiga, Daiki. I will ask my daughter」
(タイガ、ダイキ。娘を頼むよ)
『Dad! 』
(パパ!)
やめてよ、とアリスは顔を真っ赤にしていた。
同じ様に火神と青峰もどこか恥ずかしそうにそっぽを向く。
「Hahaha! I hope youth is good.」
(ハハハ!青春っていいなぁ)
克哉は朝からとても上機嫌だった。
家の前まで呼んだタクシーに父は乗り込む。
短い時間だったが一緒に過ごせて良かった、とアリスを最後に抱き締めていた。
父娘の時間を邪魔してしまったのではないか、と火神と青峰は複雑な気持ちになっていた。
昨夜火神と青峰が使用した寝具を干して、洗濯も干した。部屋の掃除終わらせた。
もう少し涼しくなってから買物に行こう、としっかり空調の効いた自分の部屋でアリスはまったりと過ごしていた。
一人になってしまい、急に静かになった家。
ベッドに横になっていると淋しさが込み上げてくる。
日本に一人、帰国したばかりの頃はこれが当たり前だった。
なのに今はそれが淋しいと感じる。
『…弱くなってるなぁ。』
力なく吐き出された独り言。
そんな暗い気持ちを紛らわそうとスマホを手にする。
画面には新着メッセージがあるマークが光っていた。
「来週からの山合宿にも来て欲しい。」とカントクからだった。
可愛らしいクマがぺこりと頭を下げるスタンプも一緒に届いていた。
それとは別にもう一件。
「デートしよう!」と黄瀬から。
練習はどうした?とアリスは思わず笑ってしまう。
カントクに『お邪魔でなければ』と参加了解の返信をしたあと、黄瀬に何と返すべきか考える。
『もしもし?』
「わざわざ電話してくれたんスか!」
呼び出しコールは数回だった。
尻尾をブンブン振る大型犬が眼に浮かぶ。
『今、お話大丈夫?』
「あ〜、ちょっとだけなら。」
どうやらあまりタイミングは良くなかったらしい。
練習中ではないようだから、モデルのお仕事中だろうか。
『なら今度にするね。』
「あー!!大丈夫っスよ!LINE、見てくれたんスよね?」
『うん。』
「じゃあお返事は?」
『私で良ければ。』
「よっしゃあ!!」
詳しくはまたLINEするっス!と黄瀬は電話を切った。