第16章 8月 Ⅲ
リビングに二人分の寝具を運んだはいいが、火神と青峰が仲良く寝るとは思えない。
『…私もここで寝ようか?』
「「そんなのダメに決まってるだろ!」」
ピタリとハモる二人の声に、本当は凄く仲がいいのでは?とアリスは思った。
いいから部屋に戻れ、と青峰に促され仕方なく階段をのぼる。
翌朝、リビングが大惨事になっていないことを祈るしかない。
部屋に戻ると克哉がベランダでタバコを吸っていた。
『ねぇパパ?』
「どうした?」
声をかけられ急いで灰皿にそれを押し消す。
『あんまり覚えてないんだけど、青峰君があの『ダイキくん』なの?』
あぁ、その話か、と克哉は笑う。
アリスが初めて家に連れて来た友人。
「たぶん、な。彼も覚えてないみたいだし断言は出来ないけど。」
『そうなんだ。』
亡くなったアリスの母親の教育方針で保育園や幼稚園には通わず、小学校から集団生活を体験した彼女は、上手く周りに馴染めずになかなか友達も作れなかった。
そんな頃、やっと出来た最初の友達だとアリスが連れて来たのがダイキくん、恐らく青峰だった。
それからアリスはどんどん明るくなり、他にもたくさんの友達が出来た。
「You remembered irst love?」
(初恋を思い出したか?)
『No! I remembered mom』
(違うよ!ママの事を思い出したの)
変な事言わないで、と怒って部屋に戻ってしまったアリスの頬は赤くなっていた。
「Our daughter grows so beautifully」
(私達の娘はとても美しく成長しているよ)
夜空を見上げそう呟くと、まるで返事をするかの様に星が輝いていた。
翌朝、やっぱりアリスの手料理が世界で一番美味しいな!と喜びながら朝食を取る克哉の前には、くっきりと隈を作った火神と青峰が座っていた。
喧嘩はしなかったらしいが、眠る事もしなかったらしい。
昼までには空港に行かなければならないという克哉にアリスは寂しそうな顔をした。
「Even if you do not have a dad, you have a prince, do not you?」
(パパがいなくても、王子様がいるだろ?)
『Prince?』
(王子様?)