第2章 4月
「まぁ、そうなんだけどね。バケモノみたいな奴等が五人。その内の一人がいるの。」
成る程な、とギャラリーの多さにやっと納得出来たとアリスは言った。
相手チームもアップが始まり、体育館の空気が変わる。
海常高校の監督が体育館入りして、いよいよ試合が始まった。
試合内容はなんとも乱雑なものだった。
黄瀬と火神の力押しの点の取り合いから始まった。
確かにあの二人は他の選手とは違う。けれどどこかチグハグな感じがする。
歯車が上手くハマっていない、そんな感じがした。
結果は誠凛が辛うじて勝った。
みんなは大喜びしているけれど、負けてしまった海常の生徒達は、なぜ負けたのかわからないと言う顔をしている。
喜びの輪に参加する程アリスは彼等と親しくはない。
今のうちにドリンクボトルやタオルを片付けしておこうと、体育館内を歩いて回収、荷物を纏めておこうとその場を離れる。
「…っ!悔しぃっス…。」
青いユニフォーム姿のまま、本人は隠れているつもりなのだろうがそのガタイの良さでは隠れきれていない。
『あの、こっち。』
隠れて泣きたいなら、と小さく手招きすると膝を立てて顔を埋めていた彼は慌てて涙を手で拭う。
「ほっといて欲しいッ、ス…。」
他校生だしなぁ、とちょっと困った様な顔をしたアリスは未使用のタオルを無言で差し出した。
大型犬でも飛び込んで来たのかと思った。
自分よりはるかに身体の大きな知らない男子に抱き締められているのに、そんなに嫌な感じがしないのはきっとそのせいだ。
『黄瀬君、だっけ?』
ヒクッ、ヒクッとまだ泣いている彼の顔は見えない。
トントンと背中をあやす様に叩く。
「…そうっス。」
『凄かったよ、あんなプレイ、やろうと思っても出来るもんじゃない。』
だから、泣いている暇があるなら早く仲間の所に戻らなきゃ、と優しい声でアリスは伝えた。
実力があるからそこ、負けた悔しさは普通に負ける事より辛いだろう。
けれどこの辛さは今後の彼を育てる糧になる。
「…君、誠凛のマネっスよね。」
『違うよ、たまたま手伝いに来てるだけ。』
「このタオル、借りるっス。俺が返すまでマネージャーでいて欲しいっス!」
だから違うんだってば、ときっと彼には届かなかっただろう。