第11章 7月
『タイガが日本に帰っちゃった後、知り合ったの…。』
泣いているせいか、話が上手く繋がっていないが火神は黙って聞いていた。
『その人はストバスやってて、大好きだった…。』
「?!」
大好きだったって、と聞き返したくなったがとてもそんな雰囲気ではない。
今まで我慢していた思いを一気に吐き出しているアリスは、自分の話す言葉にまた傷つきながら必死になっている。
『でも、彼とバスケするのが怖くなって…。』
強さは人を変えてしまった。
楽しいはずのバスケがいつの間にか相手を馬鹿にする手段に変わった。それが嫌で、彼等から距離を取った。
彼はそんなアリスを許さなかった。アリスの両手に怪我を負わせたのは、自分から距離を取ろうとした彼女への罰。
「…なんだよ、それ。」
『私が悪いのっ…、彼のこと好きだったのに…』
離れたら戻ってくれるかもと自意識過剰だったと。
だからもう、アリスはバスケはしたくないと泣き続ける。
したくないと思っているけど、それでもやっぱり忘れられなくて、揺れて苦しい、と。
「なぁアリス、ここは日本だろ。もういいじゃねぇか。」
『タイガ?』
今度は俺が側にいるんだ、と火神はアリスを抱き締める腕に力を込めた。
だからまた一緒にバスケをしよう、と。
ずっと自分の中だけに押し込んで押し込んで、苦しかったとアリスは火神に抱き締められ泣いた。
泣き疲れて眠ってしまったアリスをそっと抱き上げ、隣の部屋の彼女のベッドへ運ぶ。
リビング同様に必要最低限のものしかない、女らしくない部屋。
そっとアリスをベッドに下ろすと、赤くなってしまっている目元にそっとキスを落とした。
『大好きだった』と彼女の言葉を聞いて、酷く名前も顔も知らない奴に嫉妬した。
そしてそいつに未だに囚われ苦しんでいたアリスの事を思うと、吐き気がする程に苦しくなった。
そして気が付いた。
バスケ以外に初めて、好きだと思えるものがあったことに。
「…好きだ、アリス。」
ぐっすりと眠っているアリスには届かない告白。
しばらく寝顔を見てから火神は静かに部屋を出た。
きっと目を覚ましたらお腹を空かせているに違いない。
冷蔵庫を見て、何か簡単に作れるものでもないかと考えていた。