第10章 last summer
全中三連覇を成し遂げた。
しかし、達成感や充実感はない。
当たり前の事を当たり前にやった、そんな感じだ。
試合に勝った喜びもない。
荷物をまとめ控室を出れば、沢山の取材陣が待っていた。
テキトーにインタビューに答え、そろそろ帰らなければならないと彼等を追い払った。
『You guys are the lowest!』
(お前達は最低野郎だ!)
突然行く手に立ち塞がった少女は、流暢に英語を話す。
何を言っているのかはわからないが、何だか怒っている事だけはその表情と声色から伝わってくる。
「あァ?何言ってんだかわかんねーよ。」
『Stop basketball right now if you play like that!』
(あんなプレイするならバスケをやめろ!)
「なぁに、コイツ。ウザくない?」
捻り潰していい?とどこまで本気なのかイマイチわからない口調で紫原は言った。
『Cowards!』
(卑怯者!)
そう言って思い切り睨みつけられ、青峰も表情を引きつらせた。
いよいよこのままではマズイ、と黄瀬はいつもの調子で場を流そうとする。
「ダメっスよ、女の子相手にそんな怖い顔しちゃ!しかも言葉が通じないみたいだし…。」
周囲の人達もザワザワとその異様な光景に気が付き足を止め始めていた。
全中三連覇を決めた帝光中のスター選手相手に、小柄な女の子が喧嘩を売っているのだ。目立たないわけがない。
『Cowards!Fucker!』
(卑怯者!クソ野郎!)
彼女はそう言うと手を振り上げた。
「what are you doing?」
(何してるんだよ?)
集まり出した野次馬を掻き分け少女に駆け寄った少年。
今にも暴れ出しそうな少女は、彼に羽交い締めにされる。
「ワリィな、コイツは連れて行くから。」
少年は気まずそうにそう言って少女の腕を掴んで歩き出す。
『leave!leave Taiga!』
(離して!離してよ、タイガ!)
「let's go!」
(行くぞ!)
まだ英語で何かを言っている少女は引きずられる様に連れて行かれた。
一体なんだったのか、と行き場のない苛立ちだけが残る。
「俺達が卑怯者だと、バスケをやめろと言っていたのだよ。」
緑間は溜息交じりに言った。