第10章 last summer
来年、日本支社への異動が決まり帰国する事になった。
それに合わせ、娘の進学先は日本の高校をと決めたが、どこの学校がいいのか本人に決めさせる為に一時帰国した。
なるべく新しい学校がいい、そのワガママに合わせて見つけたのが誠凛高校。
インターネットの情報だけでは足りないだろうから、と夏休みを利用して行われる見学会に父娘で参加した。
三日間の滞在予定でまだ日本で過ごす時間がある。
アリスの母親の墓参りも済ませた帰り道。
「どこか行きたい所はないのか?」
『バスケ見に行きたい。』
誠凛高校に貼られていたポスターを思い出し、自分と同い年の日本人のバスケがどんなものか見たいとアリスは言った。
久しぶりの日本だというのに、バスケットの試合を見たいと言い出すとは思ってもいなかった。
「お前は本当にバスケが好きなんだな。」
『大好き!』
会場となっている体育館は近く、ジャージ姿の学生がたくさん集まっていた。
会場に入るとちょうど中学日本一を決める試合の後半、決着がつくまで残り五分だった。
「男子の試合だな。」
『うわぁお!』
素人目で見ても一方のチームが圧倒的に強い事はわかった。ポンポン点が入っていく。
しかし、それを面白いと見ていられたのは最初だけ。
目を輝かせていたアリスも、すっかり不機嫌になってしまった。
試合終了のブザーが鳴り、この後三位決定戦が行われるとアナウンスが入る。
『パパ!もういい!帰ろう!』
「いいのか?」
こんな茶番試合見てられない!とアリスはコートに背を向けてしまう。
こんな胸糞悪い試合は初めてだ、と。
プリプリ怒って先を歩くアリスに、ジュースでも買ってご機嫌をとろうかと自販機を探す。
コインを出そうと手を入れたポケットの中でスマホが鳴り出してしまった。
「すまんアリス、パパ仕事に行かなきゃならなくなった。」
『えー!』
「代わりにタイガ君が迎えに来てくれるから、ここで待ちなさい。」
娘を一人残す事は気がかりだったが、火神が息子を代わりに向かわせる手配をしてくれた。
残されたアリスは、買ってもらったジュースを手に父親を乗せて走り出すタクシーを見送る。
仕方なく再び体育館へと入ったが、とても試合を見る気にはならず他の競技ポスターを眺めて時間を潰していた。