第2章 4月
ボールを手にしたまま駆け寄って来た彼に、近付いたからこそ更に感じるガタイの良さが他の女子をざわめかせた。
教室で見る制服姿の彼よりも、動きやすいTシャツ姿の方がよく似合っていた。
お互いにファーストネームで呼び捨てにした事を、ここぞとばかりに詮索された。
アメリカで同じ学校に通っていた友達だと説明したが、本当にそれだけなのか?と根掘り葉掘り詮索されて、アリスは違う意味で疲労困憊。
久々の再会なら邪魔できないね、なんて最終的には置き去りにされ今に至る。
日が暮れ始め街灯がつく。季節は春といえどこの時間はまだ寒い。
しかし、ばっちりみっちり練習した後の彼等はそうでもないらしい。
コンビニに立ち寄りアイスを買ってきた。
『冷やし過ぎはよくないんじゃない?』
「あの、僕の半分食べませんか?」
『ありがとう。』
一袋の中に二つで一つが入っているタイプのそれをパチンと割る。
驚く事もなく、しっかり最初から彼もそこにいた事を認識していたアリスは差し出されたアイスを受け取った。
それに驚いたのは差し出した彼の方。
『どうかした?』
キョトンとしている黒子にどうしたの?と首を傾げたアリス。
そんなやり取りをしている間に、既に火神は二つ目のアイスを開けていた。
「すげーなアリス。黒子が見えてんのか。」
『いや、見えるでしょ、普通に。』
何を馬鹿な事を言ってるの?とアリスは呆れ顔。
しかし、黒子もまだ信じられないという表情と、どこか嬉しそうにも見える。
今まで存在に気が付かれない事の方が多かった、しかし、彼女ははっきりと自分を見てくれている。
「如月さん、僕は…。」
『黒子君でしょ、席、隣じゃない。』
気が付いていないと思ってた?とアリスは冷やかす。
「あー?俺には気が付かなかった癖に!」
『それはタイガも同じじゃない!』
それは教室ではただ寝ていただけだからだ!と言う火神と、入学式からずっと寝てるってどういうことよ?と子供の様な口喧嘩を始めた二人に、黒子はクスッと笑う。
「やっぱ女バスに入るのか?」
駅までの道。
たわいもない会話が続いていたが、火神の一言にアリスが一瞬、氷の様な目をした事に黒子は気が付いた。
『入らないよ。』
「ならマネージャーとかやんのか?」