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君と僕とが主人公LS

第9章 6月 Ⅳ


隣に座ってもいい?と聞いたくせに青峰からの返事を待たずアリスは腰を下ろした。
負けた誠凛の関係者のくせに妙な態度。
今はあまり他人と関わりたくなかった青峰は、面倒くさそうな顔をした。


『忘れ物、やっとお返し出来ると思って。』


アリスはそう言うと袋を差し出した。
別にいいって言ったのに、とぼやきながらも青峰はそれを受け取った。
これで用事は済んでしまったのだが、アリスは立ち上がらない。


「アンタさ、何がしてぇんだ?」

『わかりません。青峰君は?』


自分の質問がそのまま返ってくるとは思っておらず、返答を用意していなかった。
バスケがしたい、と言うのが模範的な答えになるのだろうが、正直、今は本当にやりたいのかわからなかった。
試合に勝つことが当たり前で、全力を出せる相手もいない。


『今日、試合見てたよ。懐かしかったし、なんか、悔しくなった。』

「は?」


アリスは自分の両手をグーパーグーパーと動かしている。
手がどうかしたのか?と注意して見ていたら気がつく。
スムーズに動いているように見えているが、何か違和感がある。
バスケを辞めた理由はこれか、と察した青峰だったが、もう出来ないと言う程では無いように思えた。


「もうやらねぇのか、バスケ。」

『だから羨ましいし、悔しいし。』


自分のやりたい事、やれていた事が出来なくなった現実をまだ受け止められていない。
なぁ、と言いかけて青峰は口を閉じた。
それに気が付いたアリスは、自然に笑顔になる。


『私、誤解してました。青峰君は優しいんですね。』

「さぁどうだかな。」

『ほらね、優しい。』


何故だろうか。
あんなに荒んでいた気持ちが柔らかく解けていく様な気がした。


「お前、今度ちょっと付き合えよ。」

『ん?』


視線がお互いをしっかりと捕まえた。
フッとどちらからともなく微笑む。
大きな青峰の手がゆっくりとアリスの頭へ伸びてくる。
わしゃわしゃと2号を撫でていた時の様にアリスの頭を撫でた。
少し乱暴にも見えるが、何故か彼女はそれを甘んじていた。


「やべ、俺行くわ。」


突然鳴り出した電子音に、青峰は苦い顔をした。
おそらく電話の相手は桃井だろう。
勝手に一人で控え室を出て来てしまった事を思い出し、仕方ないと腰を上げる。
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