第67章 新9月 Ⅰ
それに彼の才能がバスケの本場でもっともっと磨かれることを願っている。
火神本人もきちんとそれを理解しているから、ダメだ、とは言えなかった。
「タイガが行くのはいつなんだ?」
『来週だよ。』
「そっか、寂しくなるな。」
『…うん。』
夕食の片付けをしながら、アリスはどこか浮かない顔をする。
「悔いがない様に、な。」
これで二度と会えなくなるわけじゃない。そうわかっているが、間近な別れは辛い。
だから出来る事は一つ残さずやっておきたい。
お風呂を済ませ自室に戻ると、スマホが新着メッセージが届いていることをピカピカと光って知らせていた。
『…誰だろう。』
ぴっぴっと操作をすると送り主は火神だった。
届いていたメッセージは一言。
「会いたい。」
どうしたんだろう、と返事のメッセージを送るよりも通話を選択する。
届いていたのはもう30分以上も前、もしかしたら寝てしまっているかもしれないと思った。
しかし、すぐにディスプレイに通話開始のカウントアップが表示される。
『どうしたの?』
「あー、あのな。」
『んー?』
「今から少し出られるか?」
ちらっと時計を見る。
23時を少し過ぎたあたり。流石にこの時間に外出するのは、と返事に困ってしまう。
「ちょっと外を見てくんねぇか?」
『外?』
肩にタオルをかけたまま、アリスは慌ててテラスに出る。
「よぉ!」
ロードワークでもしてきたのか、少し息を荒げた火神が手を振る。
『どうしたの?』
「アリス、俺と一緒にアメリカに来てくれ!」
『?!』
跪いてこちらに手を伸ばす。
それはまるで、ロミオとジュリエットの一場面の様。
その当事者が自分でなければ、とてもロマンチックな光景なのかもしれない。
「俺は、日本に来てずっと退屈で苦しかった。そんな時、お前が来てくれた。」
『ちょ、タイガ!近所迷惑だよ。』
アリスは顔を真っ赤にしてそう言うと、慌てて外に飛び出す。
風呂上がりで髪もまだ濡れている。
慌てて飛び出したから、靴もビーチサンダル。
『タイガ、ちょっと!』
「俺は本気だ、アリス。俺のこれからの人生にはアリスに一緒にいて欲しい。…ダメか?」