第67章 新9月 Ⅰ
アメリカに行く、火神の告白後も何も変わらない毎日が続いていた。
「どう思う?」
『良くないです。けど…。』
今までと同じ練習では今後の為にはならない。
攻撃の中心が今は火神だが、今後はそうはいかないのだ。
本当ならば、新しいフォーメーションの練習や、新たなスコアラーを中心にした練習をすべきところだ。
しかし、彼等は最後まで火神の仲間であり続けようとしている。
『でも、可能ならば。私はこのまま、あと少しだけ…。』
手にしていたバインダーをグッと胸に抱き寄せてしまう。
彼が日本を起つその日までは、自分も彼を仲間として最後までサポートしたい。
「そうね。それがきっと一番よ。」
監督はそう言うと、休憩のホイッスルを吹いた。
新学期も始まり、暑さの中にも秋を感じる様になってきた。
まだ長袖を着る程ではないが、部活帰りの空気は涼しい。
いつもの様に駅前のファーストフードに立ち寄って、山盛りのハンバーガーを食べる火神、バニラシェイクを飲む黒子。そして、アリス。
「…火神君、あと一週間ですね。」
『荷造りはしてるの?』
そもそも向こうにはまだ彼の父親がいる。
そして幼いアリスと一緒に過ごした家がある。
日本から持って行く荷物は、こっちで新たに買った服が何着かある程度。
「やってるぜ。っても、こっちの家具なんかはそのままだけどな。」
「そうなんですか?」
そもそも、父親と一緒に帰国して暮らす予定だったマンションだ。
賃貸ではなく、火神の父親の所有する不動産。
しばらくは、そのまま、仕事の都合で一時帰国したりまたアレックスが来日した時にすぐ使えるようにしておく、らしい。
『そういえば、パパが合鍵を預かったって言ってた。』
「あぁ、しばらく頼むな!」
パクッと一口でハンバーガーを飲み込んだ火神はどこか無理矢理に笑った様な気がした。
『そうだ!ねぇ、出発の前はさ、タイガんちでお泊まり会しようよ!』
「はぁ?」
「面白そうです。」
決まりね!と黒子とアリスは二人で話を進めてしまう。
どうせなら、他のみんなも誘いましょうと盛り上がる。
きっとみんな「行かないでほしい」「まだ一緒にバスケをしたい」そんな気持ちがあるに決まっている。
けれど、そんな自分の思いよりも、火神本人の意志を尊重しているのだ。