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君と僕とが主人公LS

第66章 新8月 Ⅶ


すっぽりと青峰の腕の中に隠れる様に抱きしめられて、アリスは何度も頷きながら泣いていた。
夢を見ていた。
きっと園のテーマがアメリカの港だったせいだろう。
初めて愛した人と一緒に見たそれは、潮風を感じる港町で行われた試合に行った日。
試合結果は勝った、んだと思う。
その思い出は、大好きなバスケよりもその後を大好きな彼と一緒に見た夜景の方が色濃く残っていた。
みんなまだ仲が良くて、何も怖くなかったし、この幸せがずっと続くものだと信じて疑わなかった。


『アリス!』


けど、今は、自分の名前を呼んで、自分の隣にいるのは彼では無い。
過去を消してしまいたいとは思わない。
けれど、今のこの幸せも、いつか失ってしまうのかもしれないと思うと、涙が込み上げて止まらなかった。


「もうどこにも行くな!」

『…うん、ごめん。』

「もう離れなんなよ!」

「…うん。」


どのぐらい甘えてしまっていただろうか。
真っ赤に染まっていた風景は、黒に飲み込まれ始めた。


「…落ち着いたか?」

『うん、ありがとう。』


彼の腕の力がふわりと抜けて、距離がほんの少しだけ離れる。
そして再び、自然に近付く距離。
あぁ、また私は青峰君の優しさに甘えてしまっている。
こんな事はいけないとわかっているのに、青峰を拒絶出来ない。
それどころか、彼がしてくれるキスは気持ちがいいとすら思ってしまう。
まるで、本当に自分だけを愛してくれているかの様。


『…私、青峰君が好き、なのかな?』

「はぁ?お前、それを今いうのか?」

『…ごめん。』


もし、今、隣にいるのが青峰でなかったら。
キスの相手が黄瀬や火神だったら、どうだったんだろうか。
黒子や緑間、高尾や今吉だったらどうだったのだろう。
自分の感情の波とこの雰囲気に流されてしまっているのかもしれない。


「いい加減、俺に落ちちまえ。」


その為の後押しだな、と青峰はディナーチケットを見せた。
豪華なレストランで優雅な食事。
その後はレストランからナイトパレードを見た。
先に買ってロッカーに預けていたお土産を引き取り、最後の花火を待つ。


『楽しかったぁ〜!』

「だな。」


去年、浴衣を着せてもらって見た花火とは違う。
夜空に開く光の花は、とても美しいが儚い。
これが終わってしまったら、この雰囲気も終わる。
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