第66章 新8月 Ⅶ
今のうちにお土産を買ってロッカーに預けておこう。
いつの間にか日も傾き、夕焼けに染まる風景はまた違う世界の様に見える。
朝が早かったせいか、ぼんやりと風景を眺めていたら眠気に襲われる。
そのままウトウトとアリスは眠ってしまった。
日も傾き始め、夜のパレードに向けて場所取りを始める人が目立ち始める頃、やっと解放された青峰は急いでアリスの携帯を呼ぶ。
約束通り、手に入れたディナーチケット。
自分も一緒に!と泣き喚いていた黄瀬は、まだ次の仕事があるらしくマネージャーらしき男に連れて行かれた。
あのまま一緒に、とならずに済んだことはよかったが、いくらメッセージを送っても既読にならず、着信への反応もないアリスに、よく無いことばかり考えてしまう。
待ち時間が長くて怒って帰ってしまったのか、それとも…。
「ったく!」
キョロキョロと行き交う人の波を見る。
彼女が選んだ物と同じ耳付きカチューシャを付けた女は沢山いる。
しかし、どこにもアリスの姿がない。
もしかしたら、何かアトラクションに乗っている最中なのかもしれない。
こんなにも心配で、不安で、誰かを思って走り回るなんて。
「…頼むから出てくれよ。」
何度目かの発信。
携帯は耳に当てたまま、目は人を追う。
温度の無い機械音が規則正しく聞こえるだけ。
これはもう諦めた方がいいか、と電話を切ろうかと走っていた足を止める。
と、聞き覚えのある着信音が聞こえた気がした。
園内の中央。本物の海から海水を引き込んで作られた偽りの港。
それを一望できる小高い広場。
その角のベンチに小さく丸まっているアリスを見つけた。
「アリス!」
『……ん?』
ぼんやりとした目に情けない顔をした自分が映る。
「んのバカ!!何してんだよ!」
『?!』
寝起きで怒鳴られ一気に正気に戻されたアリスは、その大きな目にいっぱいの涙を浮かべた。
「なっ?!」
『…ごめん、青峰君。なんか、私、変みたい…。』
ポロポロと大粒の波をこぼしながらも、一生懸命に笑顔を作ろうとするアリスは、この雰囲気のせいか、ここで離したら消えてしまうのでは無いかと思った。
『青峰くん?』
「もうどこにも行くな!」
『…うん、ごめん。』
「もう離れなんなよ!」
「…うん。」