第66章 新8月 Ⅶ
まるでこのひとだかりから逃げ出すかの様に歩き出した青峰に、アリスは驚きながら引きずられる様に歩く。
『どうしたの?』
答える時間があるなら速く離れたい、青峰の必死な顔にアリスはそれ以上聞けなくなる。
「あれ?青峰っち?」
聞き覚えのある声。
ついさっきまであったひとだかりは綺麗に割れて、その奥には金髪の青年が立っていた。
『涼太?』
「アリスっち?!」
遅かった、と青峰は頭を抱えた。
偶然、モデルの仕事で園内で撮影をしていたらしい。
あのままではギャラリーに妙な噂を流されてしまう、と黄瀬や他のモデル達の休憩様に用意されていたレストランに入った。
「ズルいっス!!アリスっちとデートなんてっ!!」
俺なんて仕事なのに、とワンワンと泣く黄瀬にアリスは苦笑い。
青峰は不機嫌丸出しで、用意されていた軽食をもしゃもしゃと食べている。
「さすが涼太君、お友達もスタイルいいじゃない!」
「………。」
なんだよこのオネェ親父、と突き刺さる様な目を向けた青峰に、アリスの方が慌ててしまう。
『青峰君もバスケ選手ですから。』
「あらぁ〜。そうなのね!」
ふんふん、と青峰を舐める様に見る。
「涼太君とセットにして撮りたいわぁ〜。どう?報酬はこのペアディナーチケットで。」
胸ポケットから出さしたそれは、プレミアチケット。
園内にある高級レストラン、しかも完全予約制。一年以上前から予約をしなければ手に入らない代物だ。
『青峰君!やるべき!!』
「はぁ?!」
『写真撮るだけで、高級ディナーだよ…。』
アリスの目がギラギラと輝く。
食べたい!食べたい!と物凄い圧で青峰を見る。
ね、お願い…とキラキラギラギラのアリスの真っ直ぐな目に、青峰は大きな溜息をついた。
それを了解の意だと、その場が慌ただしく変わる。
衣装担当やメイク担当のスタッフに、黄瀬と青峰は連れて行かれてしまい、残ったアリスは高級ディナーを思って一人ニコニコ。
撮影再開だ!と動き出さしたその場にいては邪魔になってしまうだろう、とそっとレストランを出たアリスは、まだ行っていないエリアへと足を向けた。
アトラクションに乗らなくても、園内を見て歩くだけでも楽しい。