第66章 新8月 Ⅶ
朝食を済ませ、リビングに置かれている金魚鉢を覗く。
一年前の夏、夜店で貰った和金が三匹。ここに来た頃はメダカよりも少し大きいぐらいだったが、今は金魚鉢では狭そうな程に大きくなった。
パラパラと専用の餌を入れてやると、パクパクと三匹仲良く食べ始める。
「少し大きな水槽に変えてやってもいいかもな。」
『そうだね!今日、見てよこうかなぁ〜。』
青峰が承諾してくれるのら、近所のホームセンターに寄ってみようとアリスは思っていた。
父親を見送り、朝食に使用した食器を片付ける。
ちらっと時計を見ると時刻は8時半を過ぎていた。
急いでシャワーを済ませなければ約束の時間になってしまう。
きっとこの後はジリジリ暑くなるだろう。
髪を急いで乾かしクローゼットを開ける。バスケをやり直し始めてから、新しく買うのはスポーツウエアばかり。
いつもの公園でバスケをするならそれでもいいが、今日のこれからは仮にもデート。
『…ん〜、青峰君どんなのがいいんだろう。』
以前、青峰の部屋で見た雑誌に出ていた女の人は水着だった。
あれでは参考にならないなぁ、と何着か引っ張り出した他所行きの服を前に考え込んでしまう。
悩んた結果、無難にワンピースに決めた。
ハイウエストキャミソールタイプのワンピースに、半袖のGジャンを合わせる。
これならば、靴はサンダルでもスニーカーでも合うはずだ。
普段はしない日焼け対策と、ほんのり化粧もして荷物を確認する。
『お財布と携帯とハンカチ…。』
よし、と部屋を出ようとするとタイミング良くインターホンが鳴った。
『はーい!』
ドアを開けると思っていた通り。
いつも公園で会う時より、ちょっとだけかっこいい。
「な?!お前、それ!!」
『似合う?』
「いいんじゃねぇか。」
よかった、と無邪気に笑うアリスに、こりゃあ…と青峰は恥ずかしそうに視線を逸らした。
『で。どこに行くの?』
「あぁ、これ。」
渡されたのは人気テーマパークのペアチケット。
どうしたの?とアリスは目を輝かせる。
「貰ったんだ。期限が今月末だからよ。」
『いいの?私で?』
他に誘う人が居たんじゃないの?と喜びながらも申し訳ないとコロコロと表情を変えるアリス。
それが面白くて、青峰はわしゃわしゃと彼女の頭を撫でた。