第65章 新8月 Ⅵ
『たぶん、ナッシュは本気を出してない。』
「だろうな。」
だからここで選手交代だ、と影虎は言った。
「なぁアリス。」
『なに?』
どこか楽しそうな、嬉しそうな顔で差し出したドリンクを飲み干した青峰は、耳をかせと内緒話しをする様に手招きする。
「青峰っち!」「青峰っ!」
無防備に近付いたアリスをポスっと抱きしめた青峰に、黄瀬と火神がすぐに気がつく。
何もなかったかの様に、サッとアリスを離した青峰は、「充電完了」とイタズラに笑った。
そのやり取りに緊張していた雰囲気がふわりと解ける。
「オレも充電するっス〜!」
「お前はまだゴールしてねぇだろ!」
次は誰がアリスにバグしてもらうかでわちゃわちゃと騒ぎ始めたのを見て、影虎は呆れた顔をした。しかし、この雰囲気は大事だ。
中学時代はチームメイトだったかもしれないが、急繕いのチームだ。
数日間の練習だけでは、どうしても埋めきれないものはある。
『みんな頑張って!』
だからこそ、アリスの存在は大きい。
赤司、緑間に代わって、火神と黒子が投入され第二Qが始まる。
「本当はアリスちゃんも出たいんじゃない?」
『男の子だったらよかったのに、って思う瞬間だよね。』
試合内容はとても安心して見ていられる内容ではないが、みんなが負けるわけがない、みんなを信じてるから、とアリスは言った。
「アリスっち〜!ダンク決めたっスよ〜!」
相変わらずの大型犬の様な懐きっぷりに、アリスも大きく手を振り返す。
青峰と黄瀬のやり取りを見た桃井も、昔、みんながチームメイトとして、信頼し合ってプレイしていた頃に重なったのか、目を潤ませていた。
『さつきちゃんが羨ましいな。』
あんな風に仲間としてプレイするみんなの姿、私も見て見たかったよとアリスはつぶやく。
試合はVSが点差を縮められずに苦戦する展開。
誰もが本気で戦ってる。
しかし、突破口がない。
このままでは点差が開くばかりだ。
『涼太…凄い。』
「しかし、もってあと数分なのだよ…。」
青峰とダブルチームの作戦だったが、状況を打破する為に黄瀬が動いた。
今まで何度も本気の彼を見てきたが、今日、今の彼はそのどれとも違う。
『涼太ー!頑張ってー!』