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君と僕とが主人公LS

第65章 新8月 Ⅵ


「最後、決めて終わりたかったっス。」


ハハハ、と何かを誤魔化す様に笑う黄瀬を、アリスは優しくタオルを差し出した。
じわじわと点差を縮めていくが、なかなか決定打がない。
ベンチから仲間を信じて試合を見ている事しか出来ないことがもどかしくなる。


『!!』


レフリーの笛が響き応援の声が静まる。
シルバーとのゴール下での接触事故。
倒され痛がる紫原にドクン、ドクンと心臓が異様に音を立てて記憶を急速に巻き戻した。


「Serves you right. I'm glad to see it.」
(ざまぁみろ、いい気味だ。)


地面に転がって見上げた先から落とされた言葉。
仲間だと、友人だと思っていた人から、愛していた恋人から、向けられたその言葉は、怪我を負った手よりも酷く突き刺さった。


「…ダメだ。まず間違いなく折れてやがる。」


倒された紫原に全員が駆け寄って心配している。
自分もそこに行かなきゃと思うのに、体が動かない。


「アリスちゃん?」


自分の手を隠す様に体を縮こませて震えるアリスに気が付いた高尾は、心配そうに顔を覗き込む。
血の気が引いた真っ青なアリスは、呼吸も荒くまるで自分が怪我をして痛みを必死に堪えているかのよう。
紫原の負傷で試合は一時中断になっている。


「…アリスっち?」

「どうしたんだよ、お前まで。」

「まさか、アリスさんの怪我って…。」


大きなアリスの瞳から、ポロポロと涙が落ちる。
大好きなバスケを嘲笑われ、大事な仲間を心身共に傷つけられた。
ただの勝敗ではなく、もうこれはそれだけでは済まない。
絶対に勝つ!絶対に勝ってほしい!
コートに立つ選手だけではなく、みんなが強くそう改めて思った。
残り数秒で点差は1点。


「「くたばれ!ジャバウォック!」」


火神と青峰が逆転のダンクを決め、試合終了のブザーが鳴り響く。
祝勝の完成と一緒にキラキラと紙吹雪が降り注いだ。


『…みんな、ありがとう。』


暖かい涙が溢れる。
まだ、負けた事をうけとめきれないのか、呆然と立ち尽くすナッシュ。
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