第65章 新8月 Ⅵ
観客席は満員、TVの中継も入っている。お揃いの赤いパーカー。
チーム名の入ったタオルやドリンクボトル。
わずか数日の間にこれが用意された。
ここに応援に来てる仲間達の他にも、沢山の応援を感じる。
「ワクワクするっスね!」
『足の具合は大丈夫なの?』
「大丈夫っスよ!」
最終確認だ、とアリスは一人一人に声をかける。
「アリスちゃん、リモコン。」
『リモコン?』
真ちゃんが探してるんだ、と高尾に声をかけられなぜこのタイミングでリモコン?とアリスは不思議そうな顔をした。
「ラッキーアイテムなんだって。」
『あぁ!占いの?』
「そうなのだよ。」
だから探している、と緑間。
ラッキーアイテム探しは手伝わなくても大丈夫かな、とアリスは荷物の最終確認をする。
昨日作ったハチミツ檸檬のタッパーも忘れずに持った。
「アリスさん、ちょっといいですか?」
『どうしたの?』
もう数分で出発だ。
その前に話したいことがある、と黒子に呼び止められ、そっとみんなから離れる。
「今日の試合が、火神君と一緒にプレイ出来る試合になりそうなんです。」
『どういうこと?』
火神から聞いているだろうと思っていたらしい黒子は、目玉が落ちるのではないかという程に見開かれたアリスの瞳に、気まずそうな顔をした。
アレックスの紹介もあり、再びアメリカに戻って本格的にバスケをやると火神は決めた。そして、その出発の日が近い。
「…遅くとも秋には行くそうです。」
『それって…!』
だから、今日のこの試合は、自分にとっても特別で、火神にとっても特別な物になる、と黒子は言った。
だから、絶対に勝つ、と。
『黒子君、そのこと、他のみんなは?』
「勝っても負けても、今日の試合の後に話すと言っていました。」
『そっか。』
「あと、あの…。アリスさんは、行かない、ですよね?」
『え?』
「二人が一度に居なくなるのは、流石に…。」
『私の居場所はここだよ!』
「はい!」
だから、そんな心配はしないで、とアリスは笑う。
その笑顔に、漠然とした不安は消えていく。
「黒子君、アリスちゃん、そろそろ出発よー!」
相田の声に、二人はみんなの待つ方へと足を急がせた。