第64章 新8月 Ⅴ
するりと大きくて長い手がアリスの女性らしい曲線を撫でる。
『ちょ!?』
あんなクソ腹立つ外人はこれに触れて許されていたなんて、許せねぇだろ、と青峰は言った。
「ん?」
『太ったとか言ったら怒るからね!』
「いや、萎んだんじゃねぇか?」
胸を触られアリスは青峰を突き飛ばす。
こんな風に戯れる時間は久しぶりだ。
「な!青峰っち!!」
黄瀬の声が響く。
「ズルいっス!アリスっち、水着じゃないっスか!俺もハグしたいー!!」
「バーカ、誰が離すかよ!」
「ズルいっス!!」
青峰に右手を、自分も同じ事をすると左手を黄瀬に引っ張られ、アリスは苦笑い。
『んもぉ!二人とも痛い!!』
「ごめんっス。」「…わりぃ。」
引っ張る力が強くなり、我慢できなくなったアリスの声に二人は渋々手を離した。
ごめんね、とウルウルした目でこっちを見る黄瀬に、2号のそれが重なる。
本当に彼には弱い。青峰が居なかったら、自分からよしよしと黄瀬にハグしてしまいそうになる。
『青峰君、涼太。元気余ってるなら私と水球やろうよ。』
「いいっスよ!」
「水球よりバスケがいいだろうがよ。」
それもそうだね、と三人は笑う。
シャワーを済ませて体育館に集合ね、とアリスは更衣室へと小走りに向かって行った。
本当はもう少し、彼女の水着姿を楽しむのも良かったが、それを眺めているのは自分だけではない。
このままプールで遊ぶことも考えたが、自分以外の男が彼女を見るのは二人とも許せないらしい。
濡れた服を脱ぎながら、自分も更衣室へ行かなければと歩き出した青峰を黄瀬は呼び止めた。
「アリスっち、大丈夫っスかね。」
「どうだろうな。ダメでも俺達がいる。」
彼女を手放した上、彼女を心身共に傷つけた奴だ。
更に自分達のバスケをことごとく馬鹿にした最低野郎だ。
何としても、負けるわけにはいかない。
「凄い自信っスね!」
「そりゃ、な。お前も、だろ?」
バスケではまだ勝てなくても、アリスっちのことは負けねぇっスよ、と黄瀬は笑った。
ザーザーと溢れ流れていくシャワーのお湯。ツンと鼻をつく塩素の匂いも一緒に流れ落ちていく。
『もう、私は逃げない。』
涙を流すのは、彼等に今の仲間や友人達が勝った時だ。