第64章 新8月 Ⅴ
決戦まであと1日。練習が出来るのは今日までだ。
「よーし!終わりだ!後は明日の本番のみ!」
景虎の声に、みんな一度は手を止めたが体育館から出て行こうとはしない。
私達は明日の準備ね、と桃井とアリスはユニホームや水分補給用のボトルの確認をする。
これが終わったら、買い物に行って檸檬と蜂蜜を買ってこよう。
「アリスちゃん、この「VORPAL SWORDS」って意味、知ってる?」
即席チームといえど、試合をする以上きちんと名前を付けた方がいいだろう、と赤司の提案でこの名前になったんだと桃井は説明してくれた。
Jabberwock(ジャバウォック)を倒した剣、VORPAL SWORDS(ヴォーパルソーズ)。
一人一人が彼等を打ち負かす剣。
みんなのユニホームをきちんと畳んで籠に入れたアリスは、よし!と気合いを入れた。
「大変だ!黒子が。」
日向の焦った声に何事か、と体育館の中を見渡す。
さっきまで賑やかにしていたみんなが居ない。
「テツ君がどうかしたんですか?」
「景虎さんの後を追って行ったみたいなんだ!」
『それって…。』
再戦を前にジャバウォックに会いに行った、と言うことだろう。
どうしよう、と慌てながら携帯を取り出す桃井の横にいたはずのアリスは、体育館から飛び出す。
大通りまで走りタクシーを停めた。
六本木のどこにいるのかはわからないが、とにかく彼等の所に行かなければ、と車窓に流れる夜の街を眺める。
「六本木の繁華街だとこの辺りだけど。お目当ての店はあったかい?」
ハザードを点滅させて停まったタクシー。
中年の優しそうな男性ドライバーに言われ、アリスはキョロキョロと周りを見る。
高校生が出歩くには相応しくない雰囲気の中、見慣れた姿を見つけた。
『はい!ここで降ります!』
急いで料金を支払ったアリスは、その後ろ姿を追いかけた。
『涼太!黒子君!』
「アリスっち!」「アリスさん…。」
どうしてここに?と二人の驚いた顔が向けられ、それに気がついた他のみんなも立ち止まり振り返った。
「大丈夫です、だからそんな顔をしないで下さい。」
『大丈夫には見えない!』
何があったの!と必死なアリスの頭に大きな手が重なる。