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君と僕とが主人公LS

第8章 6月 III


まるで言葉がわかっているかの様に、2号は「ワンワン!」と嬉しそうに吠えた。
適温に設定された自室のベッド。
ゴロゴロとベッドの上でバスケ雑誌を読んでいたら、外から楽しそうな声が聞こえた。


「あれ、アイツ…。」


覗こうと思ったわけではない。
あまりにも退屈していたせいで、なんでもいいから何か楽しい事を欲する気持ちがそうさせた。
仔犬と知らない男と仲良く歩くアリス。
昨日は火神と、今日は知らない男。
別にだからなんだと思っているのに、なぜかソワソワ落ち着かない気分になる。
こんな時は大好きなマイちゃんのグラビアでも見ようと思ったが、それを部室に置いたままにしてある事を思い出した。
さつきから「ちゃんと練習に出ろ」としつこく電話が来ていた事もあり、それを取りに行くついでに顔ぐらいだしてやるかと支度をした。
もしかしたら一緒になるかもと心のどこかでは考えていた、一緒になったら彼女の方がこちらに気が付いてくれるだろう、と。
しかし、全くこちらに気がつく様子はない。
たいして混雑しているわけでもないが、男がさりげなくアリスを庇って立っている。
きっとアリスはそれに気が付いていない。
身長差は二十センチはあるだろうか。
あの男もバスケ選手なのかもしれない。
全く警戒心など無い、屈託のない笑顔で見上げている様に見える。
ふと、男がこちらを向いて目が合った。


「!あん野郎。」


それはアリスのスマホが震え、彼女の視線がそちらに落ちた時だった。
口パクで「邪魔するなよ」と確かに言った。
どうやら男の方はこちらに気が付いていたらしい。
暑さ、湿度、今までに溜まっていたフラストレーション。
イライラさせる要因は簡単に集まってしまう。
しかし、二人が先に電車を降りた事でそれは爆発せずに済んだ。
しかし一度溜まってしまったそれは、どこかで吐き出さなければ落ち着かず、ある意味タイミングよく絡んで来た若松をターゲットにしてしまった。
目的だったマイちゃんの雑誌を手に体育館を出て、まだ治らない苛立ちに気が付かないフリをした。


「ちょっと大ちゃん!」


追いかけて来たさつきははやく体育館に戻れと喚いているが、それを聞き入れる気は全くない。


「そういやお前、昨日テツに会って来たんだろ?」

「え?う、うん。」

「アリスって知ってるか?」
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