第8章 6月 III
カーテンが何者かの手によって開かれた。
その眩しさに2号も慌ててタオルケットの中に飛び込んできた。
『ちょ、2号っ、やっあ、ん!』
モフモフに擽られ目を覚ました。
そこに立っていたのは遠征帰りの黒尾。
「なぁアリス、お前意外にエロい声出すんだな。」
動画撮っておけばよかった、と黒尾は悪戯っぽく笑った。
カーッと熱くなるのは怒り七割羞恥二割、残り一割は季節のせい。
着替えるから出て行け、と黒尾を追い出し開けられたままのカーテンを閉めた。
今日は昨日買ったばかりの水着の披露も兼ねて、プールトレーニングを見に行く約束をしていた。
『2号も起きて。』
モソモソとタオルケットの中から顔を出した2号は、ふわぁ〜っと大きな欠伸をするとキラキラの目でアリスを見上げる。
どこに行くの?何をするの?とワクワクしているのが可愛らしく揺れた尻尾から伝わってくる。
「なぁアリス、遠征帰りの幼馴染に労いはないのかよ。」
『なら一緒にプール行く?』
「いいな、行こうぜ。」
支度を済ませてリビングに降りて来たアリスの手には大きめのバッグ。
どうやらその中身は着替えやバスタオルらしい。
すぐに自分も用意してくると、家に戻って行く黒尾。
ちゃんと戸締りをしておいたはずなのにどこから入ったのかと思ってはいたが、彼程の運動神経があれば二階の高さだろうと、足場があれば軽々越えられる様だ。
今夜からはエアコンをつけて窓もしっかり締めて寝ようとアリスは考えていた。
すぐに準備をして今度はちゃんと玄関から来た黒尾と2号と一緒に家を出る。
途中までは二人の足元をトコトコと2号も歩いていたが、住宅街を抜けたところでアリスのバッグに入ってもらった。
「思ったんだけどさ、ペット同伴OKなのか?」
『水には入れちゃダメみたいだけどね。この子もバスケ部員だからって入る許可は貰ってるらしいよ。』
「バスケ部員?」
ちょっと待て、と黒尾は表情を変える。
プールに行こうなんて珍しくアリスから誘われたと喜んだが、よく思い出してみれば「二人で」とか「遊びに」とか、デートを思わせる事は何も言われなかった。
『誠凛高校バスケ部の一員なんだよねー。』
バッグから頭だけを出していた2号にアリスは優しく声をかけた。