第64章 新8月 Ⅴ
午前中の練習では、景虎の近くで相田や桃井とあれこれと忙しそうにしていたアリスの姿が見えない。
「アリスさんなら、ほらあっち…。」
今日はここまでだ!との景虎の声に動きを止めた火神に黒子がボソッと伝えた。
別に探してねぇ!とハードな練習の後にもかかわらず元気だな!と思ってしまう程のオーバーリアクション。
桃井と二人で段ボール箱を運んでいる。
「みんなー!集まってー!」
桃井は元気に手を振る。
『新しいユニホーム、届きましたよ!』
運んできた箱を丁寧に開けたアリスは、その内の一枚を広げて見せる。
そこにはみんなで決めた、このチーム名前が書かれていた。
ヴォーパルソード。
怪物ジャバウォックを倒す剣の名前。
一回きりのドリームチームにも関わらず、ユニホームとジャージが用意されたのは、それだけ日本中からの応援がある、ということだろう。
再戦の試合観戦チケットも完売状態らしい。
「よく間に合いましたね。」
「それだけ、お前達をみんなが応援してる、ってことだ。」
『頑張ってね、みんな!』
サイズと背番号を確認しながら、一人一人にそれを配るアリスはいつもと変わらない様に見える。
しかし、やはりどこかいつもと違う。
隣で段ボールを開けながら、桃井は表情を曇らせる。
「…ねぇダイちゃん。」
「あぁ?」
「アリスちゃん、大丈夫かしら。」
「何かあったのか?」
「もお!」
自分達が召集された日、アリスは言っていた。
彼女がアメリカにいた頃の恋人がナッシュだった、と。そして、彼女が一度、バスケをやめた理由も彼だと。
日本に帰国し、もう二度と会うことなどないはずだった相手と、もう二度と関わらないと一度は決別したバスケを通じて再会してしまうことになるのだ。
「…私だったら絶対に大丈夫じゃない。アリスちゃん、本当に無理してないといいんだけど…。」
桃井の言葉を聞いた青峰は、無言でその場を離れる。
今日の午後は練習はなく、休息を取れと言われている。
だからといって自由に遊びに出ていいわけではないが、みんな午前のハードな水球トレーニングでクタクタだ。
思い思い、身体を休める過ごし方をするだろう。
「…アリスちゃん、午後はプールだと思う!」
桃井は青峰の後ろ姿に言った。