第64章 新8月 Ⅴ
再戦まで後2日。
「よぉし、ガキ共!今日は思い切りはしゃいでいいぞ!」
だが、リコに手を出したら殺す!とサングラスの下の目が言っている。
圧倒的に差のあるフィジカル、その差を少しでも速く縮める為に影虎が考えたトレーニングは水球。とはいえ、あくまでもトレーニングとして行うものだ。
水球として正式に行うわけではなく、足のつかない水深のプールで、ドリブル出来ないバスケをするようなものだ。
『いいなぁ。私もやりたかったなぁ。』
パーカーの下に水着は着ているが、影虎から女子は絶対に入るな!と言われている。
水中格闘技とも言われる水球、それに似て非なる球技がそこでは行われている。そこに彼女達が入ってしまったら色々とマズイ事が起こりそうだ。
「あとでちょっとだけなら、ね。」
『いいんですか?』
「ダメって言って強行で入られる方が怖いじゃない。」
毎日練習とスカウティングの繰り返しでは、ストレスになるからここらで息抜きをさせないと、とリコは笑った。
午前中はこの調子でトレーニングだが、午後はフリーにすると影虎も言っていた。
だからその時間からなら、アリスもプールに入っても構わないと笑う。
一緒に遊ぼうよ、と彼女は桃井を誘うが「私はちょっと…。」と苦笑いを返されてしまった。
バスケ部のマネージャーとしては超一流の桃井だが、決して本人はスポーツが得意なわけではない。むしろ、自分が動くのは苦手な方だ。
だから時々、アグレッシブ過ぎるアリスについていけなくなる。
「アリスちゃんは楽しんでね!」
『残念、じゃあまた今度ね!』
彼女と遊ぶのは楽しいが、今回ばかりはその「また今度」が来ない方がいいと桃井は思ってしまっていた。
水中での運動は見た目よりも相当な体力が必要らしく、午後はフリーだと言われても喜ぶ元気も残っていないだろうに。
どこまでも底が見えないなぁ、と桃井は隣でみんなを応援しているアリスを見た。そして気がつく、どこか、いつもと様子が違う。
「何かあった?」
一瞬、驚いた様な表情を浮かべたアリスだったがすぐにいつもの笑顔に戻る。
「別に無理に話さなくてもいいのよ。ただ、辛い事は一人で我慢しないで。」
みんな笑っているアリスちゃんが大好きなんだから、と桃井はアリスを抱きしめた。