第64章 新8月 Ⅴ
自分から連絡をする事はあったが、彼女の方から連絡が来るのは珍しい。
「アリスちゃんから電話がくるなんて。明日は嵐かいな?」
『もっと落ち込んでいるかと思いましたけど。元気そうでよかったです。』
落ち込んでいたからこそ、声が聞きたくて応答に出たと言ったら彼女はどうするだろうか。
ジャバウォックとの再戦の為、キセキの世代のメンツが召集され独自に練習合宿をしているのは知っていた。
間違いなく、彼女もそれに関わっているだろう。
この電話は、差し詰め一度実際に対戦した自分からの情報収集だろう。
「見てたんやろ?ワシ等から渡せる情報は見ての通りやで。」
『あれ、まだ何も言ってないですよ?』
それに、と続けた彼女の言葉に一瞬、理解が追いつかない。
『彼等は私の元チームメイトですから、聞かなくてもわかります。』アリスはそう言ったのだ。
電話ではどんな顔をしているのかわからない。
しかし、声色は特に変わることもなく、彼女が嘘をついている雰囲気はなかった。
『今吉さん、教えてほしいことがあるんです。青峰君のことで。』
「青峰?」
『はい。青峰君のヤル気スイッチの入れ方とか…。』
バスケが好きな事はわかっているが、どうにも練習となると不真面目さが出るらしい。
中学時代のチームメイト達といえど、一度バラバラになってしまったこともありそこを埋めておきたいのだと彼女は言った。
そして、それを簡単に埋めるのは、同じ時間をたくさん過ごすことだ、と。
「アリスちゃんやろな。」
『え?』
「もっと自信持ちぃや。アリスちゃんには不思議と人を惹きつける魅力があるやろ。」
『私に?』
「そうや。無自覚かいな。」
自分もその魅力に惹きつけられた一人だからわかる。
なんでもいいから、やろう!と言い出すのがアリスだったらきっと青峰も参加する。
そうなれば、きっとその場にいるみんながそこに集まるだろう。
『…鬼ごっこかぁ。』
かくれんぼじゃダメですか?なんで言う彼女のどこか楽しそうな声に、自分もそこに居たいとすら思ってしまう。
「…アリスちゃん、前に言っとったなぁ。恋人がいた、って。」
『…はい。』
「あの金髪かいな。」
『…今吉さんには隠し事は出来ませんね。』
そう言った彼女の声は震えていた。