第63章 新 8月 Ⅳ
『…っぷ、アハハ!』
しかし、アリスがもう限界だと笑い出し空気が一変した。
彼女が笑い出すと、つられて火神と黒子も笑い出す。
「なっ?なんだよ、いきなり。」
コロコロと変わる環境についていけない、と逃げ出してしまいそうな青峰の手を掴んだのはアリスだった。
空いていた自分の隣の椅子を引き、とりあえず座ったら?とまだ笑いながら言った。
『ゴメン、青峰君。ビックリした?』
どうやら卵焼きを取られた事は怒っていないらしい。
『前にね、タイガにも同じ事された事があるの。』
「そっくりでした。」
だから途中からそれが楽しくなってわざと怒るフリをしてしまった、とアリスは言った。
やっと自分が3人にからかわれたことに気づいた青峰は、あからさまに不機嫌だと態度に出す。
「そんなに怒んなよ、青峰。」
「からかわれるなんてなかなかない事でしょう?よかったじゃないですか。」
いい経験ですよ、と黒子は一言。
自分も過去に同じ事をされた火神は、今度は自分が仕掛ける方だったせいか、見事に引っかかってくれた事が嬉しくて仕方がないらしい。
『そんな怒らないでよ、ね?』
ほら、とそっぽ向いてしまう青峰の表情を覗き込むアリスは、ニコニコ顔だ。
『ほら青峰君、機嫌直して。』
半ば強引にアリスはそう言いながらデザートとして出されていたフルーツヨーグルトを彼の口に突っ込んだ。
「あー!!青峰っちズルイっス!!俺もアリスっちに食べさせて貰いたいっス!!」
黄瀬の声に3人が作っていた、賑やかな雰囲気が一気に食堂全体に広がった。
俺も、俺も!とアリスに駆け寄る黄瀬に、『やだよ、無くなっちゃう。』とアリスはあっさり拒否している。
「諦めろ、黄瀬。」
さっきまで刺々しいオーラを出していた青峰は、いつの間にか機嫌が直っていた。
「真ちゃん、行かないの〜?」
「行くわけないのだよ。馬鹿馬鹿しい。」
アリスの周りで賑やかに騒ぐ光景を見ていた緑間に、高尾が冷やかす様に言った。
本当は自分だって彼女の近くにいたい癖に痩せ我慢?と更に高尾は緑間を煽る。
しかし、その程度で揺らぐ様な緑間ではなかった。
「じゃ、俺は行ってこよ!」
「なっ?」