第63章 新 8月 Ⅳ
自分のシュートが入らない理由は、チームプレイだと言いながら、自分自身がチームメイトを信頼しきれていないからかもしれない、と。
外すわけにはいかない、絶対に入れなければならない、そんなプレッシャーを勝手に自分で自分に背負わせてしまっていたことに今更気が付いた。
例え外しても必ず拾ってくれる仲間がいると信じる事は出来たが、例え入らなくても責められることはないという確信が持てなかった。
『…緑間君は強いね。』
「常日頃から人事を尽くしているからな。」
『…そっか。そうだよね。』
自分は外して責められる事がない様に、自分で打つ事をやめた。
しかし、彼はだからこそ、確実に入れて仲間の信頼を裏切る事がない様にこうして毎日練習をしている。
「如月、お前はもう少し周りに甘えてもいいのだよ。」
『そうだね。』
「わかったらもう一本打ってみるのだよ。」
ポーンと優しく投げ渡されたボールは、今までに感じた事がない程に軽かった。
『技術も力もとても足りないから私には出来ないけど、気持ちだけなら私にも超長距離から投げられそう。』
そう言ったアリスの放ったボールは、ボードにあたる事なくリングに吸い込まれる様にネットを揺らした。
理想的なスリーポイントシュート。
こんなに気持ちよく入ったのは初めてだと、アリスは大喜びしていた。
二人で程よく早朝練習をして、宿泊施設の方へと戻るとまだどこか眠たそうな顔の面々が食堂に揃っていた。
「アリスっち、おはようっス!」
まさかアリスっちに「おはよう」って言う日が来るなんて感激だ!と朝からテンションの高い黄瀬の隣で、火神と青峰は大きな欠伸をしていた。
相変わらずの寝癖だらけの髪を全く気にしていない黒子と、そんな彼も可愛い!とはしゃぐ桃井。
「緑間とアリスが一緒だなんて、珍しいな。」
「たまたま一緒になったのだよ!」
英字新聞を読んでいた赤司に揶揄う様に言われた緑間は、ほんのり顔を赤く染めまるで言い訳をするかの様に彼には珍しく動揺していた。
「おっはよ〜アリスちゃん、真ちゃんに変なことされなかった〜?」
高尾っ!と緑間の怒った声が響く。
全く朝から煩い、と紫原は半分まだ眠っている様なとぼけ顔で二人を睨む。