第8章 6月 III
カントクから火神が早速抜け出したと連絡が来た。
まぁバスケ禁止でよくここまで持ったと褒めてもいいぐらいだろう。アリスはすぐに火神の携帯を呼ぶ。
『もしもし?今どこ?』
「どこって。プール脇のバスケコート。」
『了解!15分ぐらいで行くね。』
「あぁ?なんで?」
買物行く約束したでしょ!とアリスは怒った口調で言って、一方的に電話を切った。
他のチームメイトはカントクの厳しいトレーニングに参加しているはずだ、バスケコートにいたとしても相手が居ないのだから火神も無理はしないだろう。
それでもなるべくはやく行かなくちゃ、とアリスは急いで学校を出た。
伝えた時間よりもはやく到着したが、コート内にいる火神の様子がおかしい事に気が付きすぐに声をかけられなかった。
「いつからそこにいた?」
あ、と気まずそうにコートに足を踏み入れたアリスは転がったままのボールを拾う。
『今だよ、今。』
「…で、どこ行くんだよ。」
何かあったのかと聞く前に、火神の方が何も聞くなと言うオーラを出されてしまった。
そんなに足の具合が良くないのだろうか、と心配になってしまう。
『買物、やめる?』
「いや、約束しちまったからな。」
行こうぜ、と火神は無理矢理に笑顔を浮かべる。
歩く感じからは足の具合がそこまで悪い様には見えない。
試しに、とアリスは拾ったボールを火神に向けて投げてみるとなんて事なくそれをキャッチ、慣れた様子でバッグにしまう。
心配は空回りだったみたい、とアリスは少し安心していた。
『明日のプールにね、私も行きたいから水着は絶対買う!』
火神が話したくないならこの違和感は感じていないふりをしようとアリスは決めた。
いつもと同じ様に振る舞う事が一番いいに決まっている。
「なら行くか。」
『うん!』
仲良くコートを出て行く二人をプール側から見ていたカントクはひとまず安心の表情。
しかし、この違和感を作った原因である青峰は不機嫌この上ない表情で二人を見ていた。
誠凛の偵察に行くと言った桃井に勝手について来たまではよかった。
「なんでアイツといやがるんだよ。」
自分の前とはまるで別人の様に自然に笑っているアリスを見てバスケでは余裕で勝ったが、悔しさに似た感情が治らなかった。