第62章 新 8月 Ⅲ
「今のみんなの欠点の一つは個々のリズムのズレ。だから、今夜からみんなで寝食を共にして少しでもそれがなくなる様にしてもらうわ。」
丁度夏休み中だし、合宿みたいなものね!とリコは軽く説明した。
幸い、今練習に使用している体育館には同じ敷地内に宿泊施設が併設されている。そこの使用許可を貰ったから、早速今夜から泊まり込みだと言った。
しかも、きちんと人数分の個室があるにもかかわらず、あえて大部屋を全員で使うのだと言った。
『あの…。』
「心配しないで。私達は別室よ!」
三人で一部屋だけどね、とリコは言った。
先にこの事を聞いた桃井は自宅に荷物を取りに戻っているらしい。
「おい!ちょっと待て、…ださい。」
「なによ?」
「合宿って事はその、飯は。」
火神の言葉に日向と黒子も顔を青くする。このままではまた、とんでもない食事をする事になるかもしれない。
「安心して。ちゃーんと、作るから!」
それが一番安心出来ねぇ!と三人が内心で叫び声を上げる。
『リコ先輩が作るんですか?』
「パパのジムからフードコーディネーターさんが来て、しっかりバランスのとれた食事を用意してくれるわ。」
「「「『はぁ〜。』」」」
誠凛関係者の安堵の溜息が響いた。
一旦解散となり、各自荷物を取りに戻る事になった。
しかし、遠方から参加している赤司と紫原は取りに帰る事は出来ない。
『二人はどうするの?』
「大丈夫〜。実家に取りに行くから。」
「俺はさっき届けさせる様に連絡したから問題ない。」
『そっか、よかった!』
それを聞き安心したアリスは、じゃあ私も一旦帰るねと二人に手を振った。
「ねぇ赤ちん、アリスちゃんの事知ってたの?」
「あぁ、少しだけ知っていたよ。」
「ふぅ〜ん。」
現在のチームメイトの黒子と火神ですら初めて見たと言っていた彼女の本気(ゾーン)を、赤司が知っていた事が不思議だったと言うと、紫原も体育館を出て行った。
方向が同じ黒子、青峰とアリスは自然に一緒になっていた。
しかし、どこか気不味い空気に包まれ会話がない。
同じ電車の同じ車両で、3人でボックスシートに座ったのに、黒子は読書を始めてしまうし、アリスは流れて行く景色を眺めている。
「…お前のトリガーって何なんだ?」