第62章 新 8月 Ⅲ
『それに私はこれしか出来ないけど、彼等はちゃんと最後まで決めてくる。』
自分で言うのも情けないけど、私のシュートは入らないからねとアリスは苦笑いを浮かべた。
体格は小柄、ジャンプ力も人並みの自分にはダンクは打てない。かと言って長距離から狙うにはそれだけの距離を投げられる力もない。
それならば自分でシュートを決める事を諦め、それ以外のテクニックを磨き確実にシュートを決めてくれるチームメイトまでボールを繋ぐ事に全力を注いだ結果が、今の素早さを兼ね備えたトリックプレイになったのだとアリスは言った。
「変わらないな、彼女は。」
「赤司君は知っていたんですか?」
「まぁね。黄瀬、諦めろ。それは一朝一夕で真似できる代物じゃない。何万何億回と反復練習を繰り返してやっと身につくものだ。」
赤司の声にがっくりと肩を落とした黄瀬に、アリスは慰める様に微笑む。
『コピーは出来ないだろうけど、絶対に破れない物でもないはず。だから一緒にがんばろ!』
アリスっちー!と抱きついてきた黄瀬をあやす様な対応を取る彼女。
普段ならばそんな光景を目の前にしたらすぐさま阻止に入るだろう面々が動けずにいた。
「おいテツ。誠凛(おまえら)はアリスといつもあんな事してたのか?」
「いえ、初めて見ました。けど…。」
彼女が今まで手を抜いていたとも考えられない。
「入れなかったんだろ、たぶん。」
青峰は多少は自分の意思でそれを調節出来るが、火神はまだそれが出来ない。だからこそ、彼女もそうなんだろうと言った。
黒子同様に、バスケに関して手を抜いたり、相手に手を抜かれる事が大嫌いな彼女のこと。今までも彼女は本気で、その時その時の全力だった事は間違いない。
「ならアリスはゾーン状態になる事を無意識に拒絶していたんだな。」
「みんなー!練習メニューが出来たわよー!」
満面の笑みでバインダーを手に戻ってきたリコを見た誠凛メンバー達は、表情をひきつらせる。
あんなに楽しそうな顔をしているという事は、間違いなくとんでもなくハードなメニューを組んできたに違いない。
灼熱の砂浜で裸足トレーニングや、険しい山中でのノンストップケードロが脳裏に浮かぶ。
「今夜から始めるわよ!」
今から?!と全員が目を見開く。