第61章 新 8月II
「聞いてもいいかな?確かアリスのチームはバンダースナッチだっただろ?」
練習の合間にドリンクボトルを持って来てくれたアリスに、赤司は言った。
以前、昔の話は秘密にしてほしいと彼女に言われた事を守ってくれているのだろう。
ずっと気にしていたが、なかなか彼女と二人で話すタイミングが無く、今をそのチャンスだと思っていた。
『うん、元々は一つのチームだったのが別れたの。』
「あぁ、そういえば確かそんな話をしていたね。」
『強くなり過ぎて相手が居なくなっちゃったから、攻撃力重視のジャバウォックと素早さやテクニック重視のバンダースナッチに分かれて、どちらが強いかを競い合ってたんだ。』
だからあの時、あの凄いパス技術のセイ君は私達にプラスの刺激だったよ、とアリスは笑った。
「そうだったのか。」
『うん!』
「それじゃあと一つ聞いてもいいかな?」
『なぁに?』
赤司はそっとアリスの左手へと自分の両手を伸ばす。
そしてとても大切な壊れ物に触れるかの様に、優しく彼女の手を持ち上げた。
「君の手に怪我を負わせた奴がナッシュなのか?」
『ちがっ!これは試合中の偶発的な事故で…。』
そう言うとあからさまに彼女は視線を逸らした。
「…そうか、すまなかったね。辛い過去の話をさせて。」
赤司はそう言うと、そっと彼女の手の甲へと唇を落とした。
『ちょ!?』
突然の事に慌ててしまうアリスを見てクスクスと笑った赤司は、おまじないだよ、と一言。
『何のおまじないなの?』
「もうこれで、俺の事を一番に思い出してしまうだろ?」
『!!』
また、おまじないの効果がきれたらしてあげるよ、と赤司は綺麗な顔で言った。
珍しく楽しそうに他者と戯れ合う赤司の姿を見て、桃井はふわりと表情を緩める。
すぐ隣のコートでは、黄瀬、青峰、火神が練習だと言いながらもどこか楽しそうにボールを追いかけており、それを黒子と紫原、高尾がニヤニヤと見ている。
その隣のコートでは緑間と日向が真面目に練習をしていて、二人の相手を若松がしていた。
一見、全員がバラバラの様に見えるがみんな今はバスケを楽しんでいるのが伝わってくる。
「みんなー!会議室取れたからスカウティング始めるわよ!」