第61章 新 8月II
しかし、どんどんエスカレートしていくまるでスターキーをおちょくる様なプレイに、試合終了後のインタビューに、全員が歯を食いしばっていた。
自分がバスケをやっていれば、嫌でもどこかで目にすることはあるだろうと思っていた。
しかし、古巣のロサンゼルスに行ってもそれがなかった事もあり、このままもう二度と彼の彼等のバスケを見ることはないかもしれないと思っていた。
「…アリスさん?」
『………。』
「大丈夫ですか?アリスさん?」
無意識のうちに左手を庇う様に握り、その手に力が入ってしまっていた。
「アリスさん!血が出てます!!」
感情の起伏を滅多に外に出さない黒子の珍しい大声で、全員の驚きの目がアリスに集まる。
どれだけ力を入れているのか、自分の右手の爪が左手を傷付けジワリと血が滲み出している。
それでもまだ、彼女には黒子の声が届いていないのか、まるで身体だけをここに残して意識は違うところに行ってしまっているかのよう。
「アリスっ!」
『っ?!』
バッと火神に右腕を掴み上げられ、やっと彼女の目に彼等の姿が映った。
「お前!何してんだよ!!」
『え?』
「兎に角、保健室に行きましょう。」
テレビ画面の中では、ジャバウォックのメンバーに向かって景虎が噛み付き、再戦の約束を取り付けていた。
「全く、悔しかったのはわかりますが自分の手を傷付ける程力が入るって、アリスさんもどうかしてますよ。」
『…黒子君、違うの。』
手当をする為に握っていた彼女の手が小刻みに震える。
「…アリスさん?」
『…私の元チームメイトなんだよ。』
「はい?」
ポタリ、と巻いたばかりの包帯に雫が落ちる。
どういう事なのかと聞こうとした黒子の言葉は、声には出せなかった。
ポロポロと大粒の涙を流す彼女を見てしまったのだ。
本場ストバス仕込みのトリッキーな彼女のプレイは確かに彼等のそれによく似ている。
それに以前、火神の家で見せて貰った昔の彼女を紹介する月バスの記事には「本場ストバスチームでも大活躍」とあった。
バラバラの情報が彼女の流す涙で繋がる。
「…アリスさん、今日はもう帰りましょう。」
『でも…。』
「大丈夫です、もう貴方からバスケを奪い傷付ける様な人は今は誰もいません。」