第60章 新 8月
それをきっかけに、練習中だった事など忘れて彼女にみんなが駆け寄った。
そして、口々に帰国を心から喜ぶ言葉がかけられた。
みんなにお土産があるんだ、と引きずってきたトランクを開けたアリスは一人一人にそれを手渡す。
アメリカ発の有名スポーツブランドの日本未発売デザインのドライメッシュTシャツ。
前もって相田から全員のサイズを聞いていたアリスは、特別に自分にもユニホームを作ってくれたお礼の気持ちだから、とそれを配った。
「これでますます練習に気合い入るわね!」
明日からの練習もしっかりやりなさいよ!と相田は言った。
今日は早めに練習を切り上げる予定だったらしく、このまま片付けをする。
アリスのお土産を各自片付け、体育館の片付けを始めている様子を少し残念そうに眺めていた彼女の足元で、2号がキラキラの目をしていた。
きっと彼は今すぐにでもアリスに遊んでもらいたいと思っているのだろうが、それを我慢しているらしい。
隠しきれない思いが可愛らしく揺れる尻尾に出てしまっている。
『片付けが終わるまでお散歩してくる?』
それに気づいたアリスは、そっとしゃがみこみフワフワと彼の頭を撫でた。
この時間帯はちょうど日陰になる体育館裏へと歩く。
久しぶりのアリスとの散歩が余程嬉しいのか、はしゃいで走り回る2号。
それを見ていた彼女は、そうだった!と何かを思い出しスマホを手にした。
この時間はきっと彼等も練習中だろうから電話ではなく、メッセージアプリで連絡した方がいいだろう。
『今日、ロスから帰国しました(^^)お土産を渡したいのでオフの日を教えてね❤︎』
作り上げたメッセージをコピーして、一人一人に個別送信した。
黄瀬、青峰、桃井。高尾、緑間には全く同じ内容のメッセージを送る。
赤司や氷室にもお土産を買ったのだが、彼等はすぐに会える距離にはいない。
どうしたものかとしばらく考え、『東京に来る予定があれば教えてね❤︎』と後半部分を書き換える。
『これでよし!と。』
全員に送信し終えたタイミングで、火神の呼ぶ声が聞こえた。
「っ!2号もいたのかよっ!?」
『まだダメなの?』
「しゃーねぇだろ!」
これでも大分、2号には慣れたんだと言いながらも微妙に距離を取る火神を見てアリスはクスクス笑う。