第60章 新 8月
成田空港から親子でタクシーに乗り、日本の自宅へ向かう。
時差ボケでぼんやりとしていたが、見慣れた街並みにアリスはパッと目を大きく開いた。
『…帰ってきたんだ。』
「あぁ、そうだな。」
一ヶ月と離れていなかったのに、随分と久しぶりに感じてしまう。
駅前から住宅街に入ればアパートまではすぐに到着した。
『パパ、私このまま学校に行ってくるね。』
「もうバスケがしたいのか?」
『お土産を渡しに行くの!』
それは口実だろ?と冷やかすように笑った克哉は、夕飯までには帰ってくるようにと微笑む。
夏の日差しは同じなのに、湿度の差で日本の方が暑いと感じながら、カラカラとトランクを引きずる。
どうせなら駅前で降ろして貰えばよかった、と今更考えながらちょっと休憩しようと公園の中へと足を向けた。
まだ眠気が残っていて、自分の感覚では早朝の様に感じるが公園内の大きな時計は正午を指している。
いつも貸切なのかと思っていた古びたストバスコートでは近所の子供達が楽しそうな声を上げてはしゃぎまわっていた。
それを見たアリスはみんなに買ったお土産のいっぱい詰まったトランクを持って、速く誠凛高校へ行かなきゃ!と踵を返す。
インターハイは敗退してしまったが、きっと彼等は冬に向けて練習に励んでいるに違いない。
火神や黒子に前もって練習予定を聞いていたわけではないが、そう思って疑わなかった。
通い慣れた通学路、春には三人で眺めた桜の木も緑の葉を生い茂らせている。
体育館からは案の定、ボールの弾む音とバッシュのスキール音が激しく聞こえてくる。
「ん?どうしたんですか?」
それまで大人しく邪魔にならない端にちょこんとオスワリをしていた2号が、不意に走り出した事に気が付いた黒子は手を止めた。
千切れてしまいそうな程に尻尾を振って真っ直ぐに2号が走って行く。
『ただいまー!』
思い切り飛び付いてきた2号をしっかりと抱き止め、熱烈な歓迎で顔を舐めまわされながらそれを心底嬉しそうに受け入れている。
「アリスさん!」
黒子の声に他の部員達も手を止め一斉にそちらへと目を向けた。
『ただいま戻りました!長らくお休みを頂いてご迷惑をおかけしました!』
「いつ帰ったの?」
真っ先に声をかけて来た相田に、今日です、と微笑む。