第59章 新 7月 II
けれど、そのバスケを自分に教えてくれたのは紛れもなく、父親だ。
「そうか、よかった。」
『だからね、私もバスケは楽しいって教えられる人になりたいの。』
「そうだな。」
その才能もお前にはあるよ、とアリスの頭を優しく撫でる。
だからこれは子供扱いだ、と文句を言うがやっぱりその表情はとても穏やかで、離れていた時間などこの父娘には関係ないとわかる。
『…ん?』
パーカーのポケットの中でスマホが震えだした事に気が付いたアリスは、そっと克哉から離れる。
『今吉さん?』
そのまま部屋に戻ったアリスは、着信相手の名前に急いで通話開始のマークをタップした。
「なんや、ちゃんと出てくれるやないか。」
『え?』
「いや、久々やね!元気しとる?」
『はい、今吉さんも元気そうですね。』
どうやら向こうは彼の後ろに何人か人が居るらしく、賑やかな声が聞こえる。
その声色は明るく、雰囲気がいい場所にいるのだとわかる。
「アリスちゃん言うてたやろ、ちょうどいい仲間が見つかるって。」
『ストバスの話ですか?』
「そうや、それでな。今度大会に出るんや。」
メンバー聞いたら驚くで、と今吉はクスクス笑っている。
『よかったですね!』
「なんや、誰がおるんか気にならへんの?」
『聞いたって素直に教えてくれないでしょ?』
今吉さん意地悪だから、とアリスは茶化す様に返した。
それにメンバーを聞いたら驚くとヒントをくれているのだ、日本の大学生で彼と一緒にバスケをしそうな人を彼女はそう多くは知らない。
だからなんとなく、聞かずにもその場に誰がいるのか予想出来てしまう。
「当日のお楽しみにしとき。」
『当日?』
この機会を持てたのは、アリスのおかげだと今吉は言った。
だからきっかけを作ってくれた彼女には、今の自分達を見てほしい。
「試合のチケット、送っといたんや。」
『いいんですか?』
自宅に郵送で届く様に手配しておいたから、暇だったら友達誘って見においでよ、と今吉は言った。
「それとな、青峰がまたへそ曲げる前に連絡したってや。」
『青峰君に?』
電話に出ないって不機嫌になってて仕方がないと桃井が今吉にSOSを出したらしい。