第59章 新 7月 II
聞けばかつて自分もお世話になったコーチがそこにおり、新しい戦力を探しているという。
面白半分で誠凜の試合映像を彼に見せたら、火神のその実力にとても興味を持ってくれたらしい。
それと同時に、その映像の中にアリスを見つけ、負傷引退したと思っていたが選手復帰しているならば是非、彼女も迎えたいと言ってくれているらしい。
「まだタイガには話してないんだけどな。」
今は大事な試合中だろ?と言ったアレックスに、誠凜はもう負けちゃったよ、とアリスは力無く言った。
「それ、本当か?」
『うん、絡山に。ほらウインターカップの決勝戦の相手に、今回は負けちゃったみたい。』
そっか、そうだったのか、とアレックスはどこか嬉しそうにも見える。
「でもなぁ、アリス。お前はまだダメそうだからなぁ…。」
お前を日本に残してアイツだけこっちに戻るって決められるかな、と小さくこぼす。
アリスも一緒なら迷う事なくこの話を受け入れるだろうと思っていたらしい。
『タイガなら大丈夫だよ、ちゃんと自分の事を自分で決められる。』
「そうだな。」
そうだよ、と返したアリスはぎゅっと自分の左手を握った。
ただ、名前を聞いただけでこんなではここから逃げて日本に帰った時と変わらない。
もうあの頃の自分とは違う。
『私ももっと強くならなきゃ!』
「まぁ、そう焦るなよ。せっかく克哉も日本に戻れるんだ。離れた分の時間をちゃんと楽しめ!」
それからでも遅くないだろ、とアレックスは言った。
「それに。」
『ん?』
「今アリスをこっちに呼び寄せたら恨まれそうだからなぁ。」
日本で見た高校生スーパープレイヤー達の姿が浮かび、アレックスはクスクス笑っていた。
帰宅したアリスは、すっかり荷物が運び出され手荷物として飛行機に持ち込むトランクだけになってしまった部屋を見て感傷的な気分になっていた。
火神と一緒に育った我が家で、ただ、ただ、ボールを追いかける事が楽しくて仕方がなかった日々が蘇る。
出会った頃は大差なかった身長は、どんどん火神に抜かされた。
「日本の伝統だ!」と毎年壁に二人の成長記録を刻んだ傷、その差も離れていく。
氷室やアレックスに出会ってもっともっとバスケにのめり込んで、そして彼に出会った。