第59章 新 7月 II
木吉の見舞いを済ませアレックスと合流したアリスは、久しぶりの彼女のスキンシップにちょっと恥ずかしがっていた。
しかし、ここはハグやキスを気にする人はいない。
「よかったじゃないか!やっぱりアリスの手はもう治ってんだよ!」
『そうだね、なんかホッとした。』
病院を出た二人はお茶でもしよう、と近くのカフェに入る。
「アリス!いつ戻ったの?」
注文を聞きに来たウエイトレスはかつてのチームメイトだった。
今も彼女はこっちの名門校のチームに所属していて、プロを目指していると話してくれた。
だから余計だろう、アリスが一緒にいたアレックスを見て彼女はテンションを更に上げていた。
「アリスも日本でバスケやってるんでしょ?」
『うん、まぁちょっとだけ、ね。』
そうだよね、日本のバスケじゃ物足りないでしょ?と彼女は何も悪気なく、きっと嫌味でもなく、素直にそう言った。
だからアリスも苦笑いを返す事しか出来なかった。
「でも残念ね、昨日まではいたのよ?」
『誰が?』
「Jabberwockのみんな、だよ。」
きっと良かれと思って言ったのだろう彼女の言葉に、アリスの表情は凍り付いた。
だから言ってしまった彼女は、その気まずさに耐えられないとキッチンの方へと戻ってしまった。
出されたアイスティーのグラスに負けない程、アリスは冷や汗をかいていた。
その異常さにアレックスは大丈夫か?とタオルを差し出す。
それを受け取ろうと伸ばされる手は小さく震えていた。
もしかしたら、と考えなかったわけではない。
だから極力、バスケに関わってしまうような場所には行かなかった、いや、行けなかった。
それにかつてのチームメイトや友人達にも自分から会う様な事はしなかった。
バスケに背を向けて、バスケから逃げる事はやめた。けれど、まだ、彼に、彼等にどうやって向き合ったらいいのか分からない。
「…まだ、ダメそうだな。」
『上手く言えないんだけど、怖い?のかもしれない。』
「まぁ仕方がないさ。でも、参ったなぁ…。」
アレックスは一気にアイスコーヒーを飲み干し、わしゃわしゃと髪をかいた。
「実はな、タイガとアリスに話があったんだよ。こっちの名門クラブに入らないか、って。」
『え?』