第59章 新 7月 II
英語のアナウンスが流れる院内は、とても明るく清潔感に溢れている。
癒し効果を考えられているのか、観葉植物が並んで居て緑も美しい。
リハビリ治療がメインの患者が入院している病棟という事もあってか、そこは居心地がいいとすら感じてしまう。
小さな花束と日本から持って来ていたバスケ雑誌を手にしたアリスは、木吉のいる部屋へと向かう。
きっとここでも相変わらずの人を惹きつける不思議な力で、彼は他の入院患者達に囲まれていて、きっとそこはここよりも更に明るくて暖かい場所になっているだろう。
術後の経過もよく、松葉杖をついてならば自由に出歩く許可も出して貰えたと嬉しそうに話していたことを思い出し、もしかしたら彼は部屋にいないかもしれないと少しだけ不安になってくる。
しかし、そっと病室内を覗いたアリスからそれは吹っ飛んだ。
ベッド座ってバスケットボールを器用に指の上で回してバランスを取って見せている木吉がそこにはいたのだ。
『木吉せーんぱい!』
「アリスちゃん?!」
『お久しぶりです。』
突然の思いもよらない人物の登場に、相当驚いたのだろうボールを落としてしまった。
転がって来たそれを拾い上げたアリスは、代わりにと持って来た花と紙袋を渡した。
「わざわざ見舞いに来て来れたのか?」
そうです、と言いたいところだが、そうではない事はきっと日向や相田から聞いているだろう。
それにアレックスも彼女がこっちに来ている事を知っている。
『父の帰国準備の手伝いに来てるんです。』
「本当か!よかったな、親父さんもこれからは一緒に暮らせるのか!」
『はい。』
受け取った紙袋の中をガサガサとあさりながら自分の事の様に嬉しそうに言ってくれた木吉に、本当にこの人のそういう所は底が見えないなぁとアリスは表情を緩ませた。
袋の中から月バスを取り出しパラパラとページをめくりながら、視線はそこに落としたまま柔らかな口調で木吉は言った。
負けちまったらしいな、と。
「まぁまだ冬もあるからな!アイツ等なら大丈夫だろ。」
『そうですね、みんな今はただバスケが好きでやってますからね。』
「アリスちゃんはどうなんだ?」
『私も楽しいです!』
そうか、と溢れんばかりの笑みを向けてくれた木吉にアリスも同じ笑顔で頷いた。