第58章 新 7月
しかし、そこが誠凜バスケ部の絆が強い証の様な気がして、黄瀬は羨ましいと思ってしまう。
「で、その大事な時期にお前は何やってんだよ?」
「今度ストバスの大会にウチの先輩が出るンスよ!」
元海常の笠松、元秀徳の宮地、元桐皇の今吉、元陽泉の岡村、元洛山の樋口が作ったストバスチームが出る大会の地区予選が次の日曜に行われるんだと、黄瀬はキラキラした顔で話した。
「応援に行くんですか?」
「当たり前っスよ!今の俺にバスケの楽しさを思い出させてくれた恩人の一人が出るんスよ?」
だからそれにアリスも誘いたかったんだ、と黄瀬はうな垂れた。
「はほえひほんにいはとひてほ…」
「火神君、飲み込んでから話して下さい。」
咀嚼しながらでは何言っているか分からないです、とシレっと言ったが黒子は火神が何を言おうとしたのかわかっていたのだろう。
「あの、落ち込んでる所申し訳ないですがきっとアリスさんは行かなかった、いえ、行けなかったと思いますよ。」
「えぇー?!」
まだむしゃむしゃとバーガーにかぶりつく火神はそうだ、そうだ、と頷いていた。
「その日、僕達は練習試合ですから。」
「なーんだ、そういう事っスか。」
俺はてっきり「アリスがお前なんかの誘いにのるかよ」って言うのかと思った、と火神の口調を真似して茶化す様に言った黄瀬はどこか安心しているかの様に見える。
誤解されても仕方がない様なインタビュー記事が雑誌に掲載されてしまってから、直接アリスに会う機会がなかった。
けれど電話やメッセージアプリでのやり取りはあったし、インターハイが終わったら遊びに行こうと約束もしていた。
「でも正直、アリスっちがいないのはちょっとだけ気が楽になるっスよ。」
「そうですか?」
「だって海常(オレ等)が勝っちゃったらアリスっちを泣かせる事になっちゃうじゃないっスか。」
そう言った黄瀬の目はいつものキラキラした犬の様なそれではなく、ギラギラした攻撃的で挑発的なものだった。
しかし、その目は火神と黒子の闘志に火をつける事はしたが、嫌な気持ちにはさせなかった。
「それを言うなら僕達もそうですね。」
「あぁ、誠凜(俺等)が勝っても嬉し泣きさせっちまうからな。」