第57章 新 6月 Ⅲ
そう言ったアリスは、フワリと微笑んで見せた。
『こんな風に想ってくれるマネージャーさんがいて、涼太は幸せですね。』
「え?」
『心配しないで下さい。』
縁を切る事は出来ないけれど、妙な誤解を招く様な事はしないとアリスは言った。
それを聞いた彼女は、安心した様に表情を緩めた。
「突然押し掛けてすいませんでした。でも、貴方とお話出来てよかった。」
黄瀬が貴方を好きになるワケもわかりました、と彼女は言った。
きっと次に会う時は、敵同士。
けれどお互いに仲間達を大切に思う気持ちが本物だと言うことはわかった。
だから不思議と嫌な気持ちにはならなかったのかもしれない。
彼女と別れ当初の目的だったコンビニで買物を済ませたアリスは、急いで仲間達の待つ体育館へと向かった。
『みなさん、ドリンク置いておきますね!』
よいしょ、と人数分より多いドリンクボトルの入ったバスケットを置いたアリスはタオルを取りに部室へと戻って行った。
「なんでしょう、アリスさん吹っ切れた感じがしますね。」
「お父さんの事を知ってなんか悩んでたみたいだったけど。」
「そうか?変わんなくねぇ?」
安心したと話していた黒子と降旗に、Tシャツの裾で汗を拭いながら火神は言った。
そんなだからいつまでも関係が進展しないんだよ、と二人の冷ややかな目が向けられ、バツが悪い表情を浮かべる。
彼女はきっと他人に好意を持たれる事にも向けられる事にも異様に慣れてしまっている様なところがある。
それは彼女の自惚れや自信過剰なわけではなく、きっとそれだけ今まで幸せな環境下にいた、という事だろう。
恋愛、友愛、親愛関係なく、周りの人達から愛情をたくさん注がれてきた証拠だ。
しかし、今この現状ではそれが邪魔に感じてしまう。
いくら言葉で「好きだ」と伝えても、いくら態度で大事にしている事を示しても、『ありがとう』の一言で終わってしまう。
「火神君、そんな事では黄瀬君や青峰君に取られますよ?それに、赤司君が本気で拐いに来たら勝ち目なしです。」
「確か秀徳の連中ともアリスちゃん仲良いよな。」
黒子と降旗の言葉に火神の表情から余裕が無くなっていく。
彼女の一番近い場所で、彼女と一番長い時間を過ごして来たという特別はもはやそうでは無くなってしまっている。