第57章 新 6月 Ⅲ
昔からとんでもないところで抜けてんだよ、と火神はボヤいた。
『参ったなぁ…。これ、涼太は大丈夫かな。』
「まぁインタビュー答えてるしな。」
アリスの激しい動揺ぶりに流れを引っ張られてしまい、すっかり彼等の確かめたかった本題から話題が大きく反れてしまった。
至急の用件があるとマネージャーからの連絡を受け、モデル事務所へ行った黄瀬を待っていたのは月刊バスケットボールの記者とカメラマンだった。
なぜ彼等の取材がこちらからなのかと不思議に思ったが、発売されたそれを見て納得してしまった。
きっと同じ出版社が出しているゴシップ誌で記事にされる所だったのだろう。
そうしない代わりに、月バスで黄瀬の特集とインタビュー記事を大きく掲載する事をモデル事務所の社長は許可したに違いない。
まだ、モデルとしては新人だった中学時代とは違い、今は例えそれが海常高校内の学校新聞だったとしても、写真が掲載される時は事務所を通せと言われている。
だから月バスの取材等が海常高校に来ても、黄瀬はその場に居なかった事にされることもあった。
「…アリスっち、怒ってるだろうなぁ。」
彼女を大切に想っている事には嘘偽りはないが、これではまるで彼女も自分をそう思っているかの様だ。
大きく溜息をついた黄瀬は、彼女に謝らなければと思えば思うほどに、気持ちも指も重くなり動けなくなる。
スマフォ画面には彼女の連絡先が表示されているが、発信ボタンを押すことができない。
はぁ…っとまた溜息をついた。
「黄瀬君、彼女いたんだね!」
「彼女もバスケやってる人なんでしょ?」
キャイキャイとゴシップに騒ぐ女子達にいちいち否定するのも疲れてしまい、いつもの営業スマイルも上手く作れない。
「だから彼女は違うんスよ。」
これを口にするのは何度目だろうか。否定するのも悲しくなってくる。
もう一層の事、彼女だと開き直ってしまった方が楽かもしれないとすら考えてしまう。
はぁ…っと黄瀬はまた大きく溜息をついた。
そんな彼の重たい心情とリンクした様な灰色の雲から雫が落ち始める。
それでなくともこの季節はジメジメしていてなんとなく気が晴れないというのに、きっと今頃自分と同じ様な目にあっているだろうアリスの事を考えると、更に気が重くなるばかりだ。