第56章 新 6月 II
それから小さく溜息をつく。
「またなんかあったんスか?」
『また、って…。』
何もなかった、とは言えないのは不意に火神に言われた意味深な言葉を思い出してしまったせいだ。
あの夜、自分は何も答えられなかった。
結局、シャワーから黒子が戻って来てまた勉強に戻りそこからはそんな雰囲気にはならなかった。
俯いてしまったアリスは黙ってしまう。すると繋いでいる手にギュッと力が込められ、どうしたの?と彼女は視線を上げた。
「今度は誰っスか?」
黒子っち?火神っち?と黄瀬は苦笑いだ。
「アリスっちがモテモテなのはわかるんスけどねぇ。」
いつも彼女を悩ませるのは自分以外の男ばかりで、それが羨ましくもあり、腹立たしくもある。
けれど、理由や原因が誰だったとしてもやはりアリスが何かに悩んでいる姿は放っておけるものではない。
『自惚れみたいでこんな事は言いたくないんだけど。みんな私なんかのどこがそんなにいいんだろう。』
「そりゃ、みんなアリスっちにどこかで助けられてるからっスよ。」
『助け?』
「そうっスよ。」
俺だって初めて負けを実感して、初めての感情に自分一人ではどうしようもなくなってしまいそうだった時に、助けてくれたのがアリスっちだったよ、と黄瀬は微笑む。
それは彼女からしたら特別な事ではなかったのかもしれないし、たまたまあの場に居合わせてしまっただけなのかもしれない。
けれどそれがあって彼女と知り合い、沢山の言葉を交わして、何度も慰められ、一目惚れだと思っていた感情が確かな物に育った。
『助けられてるのはいつも私の方なのに。』
「少なくとも俺は、何度もアリスっちに助けられて慰められて。」
だからきっとお互い様なんスよ、と黄瀬は言った。
「それにアリスっちとバスケするのは楽しいっスからね!でも、やっぱりみんな一番になりたいんスよ、俺もね。」
『涼太、私は、その…。』
「まだ、ダメ?」
コクンとアリスは黙って頷く。
するとまた、繋いでいる手に力が込められた。今度はそれに返す様に、アリスも力を込める。
『ほら、今も私は涼太の優しさに助けて貰ってる。』
「当たり前っスよ、だって俺はアリスっちの王子様っスからね。」