第56章 新 6月 II
グレーのブレザーのジャケットを脱ぎ、彼を囲む女子達へ愛想良く笑顔を振りまいていたが、アリスの姿を見つけた黄瀬は、集まってしまっていた女子達に「ゴメンね」と手を振りその場を離れる。
そして真っ直ぐに彼女の方へと駆け寄って来た黄瀬に、どうしてここに?とアリスは疑問の表情と一緒に、嬉しそうに微笑んだ。
「神奈川県の代表校が決まったんスよ。」
『おめでとう!』
まだ決まったとしか言っていないのに、と言う黄瀬の表情は明るく、その顔からも代表校がどこに決まったのかわかる。
だから彼女もおめでとう、と言ったのだ。
『みんなにも頑張って東京代表になってもらわないと!』
「そうっスね!」
『でも、突然来たのはそれだけが理由じゃないんでしょ?』
「この後ちょっと付き合って欲しいっス。」
確か去年は誕生日を祝って欲しいと突然やってきた。
今回は海常高校が神奈川県の代表校に選ばれたと報告に来たついでに、普通にデートに誘いに来たと黄瀬は言った。
そんな黄瀬の嬉しそうな顔を見てしまうと、この後友人達と遊びに行くつもりだったとアリスは言い出せない。
そんな彼女の心情を先に察した友人達は、クスクスと顔を見合わせて笑う。
「じゃあ私達はここで。」
『でも…。』
「私達とはいつでも遊べるんだし。」
学校で毎日会えるんだから気にしないで、とアリスの友人達は笑顔で帰ってしまった。
「なんか邪魔になっちゃったっスかね?」
『正直ね、来るなら連絡してほしかった。』
「怒ってる?」
怒ってたらこんな風に笑えないよ、とアリスは言った。
それに心底ホッとした様に笑った黄瀬は、なら行こうとそっと彼女に手を差し出す。
やっぱり犬の様に懐いて来る黄瀬には弱いなぁとアリスは思いながら、彼の大きな手に自分のそれを重ねた。
ふわりと優しく包まれる様に握られる手が暖かい。
特にどこに行くと決めていたわけではないが、久しぶりにアリスと二人で過ごす時間だと黄瀬は溢れんばかりの笑みだ。
『ご機嫌だね?』
「そりゃ当たり前っスよ!」
インターハイ出場も決まり、大好きなアリスと二人で、手を繋いで街を歩いている今がとても楽しく幸せなんだと黄瀬は話す。
なんだかむず痒くなる様な言葉に、彼女は少し恥ずかしそうな顔をした。