第7章 6月 II
特に何かスポーツをしているわけではないし、知らない人にはあえて教えたくなかった。まして、現在進行形でバスケに関わっている人には。
『ダイエットの為に走ってるの、この辺を。』
アリスっちにはダイエットなんて必要ないスよ、と黄瀬は言った。
『まぁ、それでね。この前これ着てた人と一緒になってね。成り行きで…。』
「ヤッたんスか?!」
何をだ?と黒子の冷ややかな目が黄瀬に向けられる。
『違う、違う!ゲリラ豪雨で二人でずぶ濡れになっちゃったから、お風呂と着替えを貸してあげたの。その時、その人が忘れてったの。』
だから二人の言う『青峰』って人を知らないし、仮にその人だとしてもなにもやましいことは無いとアリスは言い切った。
ただ、ロードワークをしていることやストバスコートで会ったことを言いたくなくて、なんだか拗れてしまったのだ。
「まぁ、あり得ない話じゃなさそうっス。」
「確か青峰君の家もこの辺りですからね。」
最寄駅は確実に同じはずだと黒子は言った。
「でもよかった〜。黒子っちが来てくれなかったら俺、ダブルショック受けたままだったス!」
すっかり機嫌が治った黄瀬は、足元にじゃれついてきた2号を撫でる。
青峰にもアリスにも騙されたのかと思った、と言って笑う黄瀬に黒子は苦笑いをして居た。
「(青峰君が知らない女子の家に上がるなんて…。)」
そう考えていたことはあえて口には出さなかった。
そのあと、アリスの作った晩御飯を三人で食べて黄瀬と黒子は帰った。
後片付けを済ませて戸締りを確認。
鉄朗はバレーの試合で遠征中。
だから2号が一緒にいてくれるのは心強い。
『…明日はタイガとお買い物。どんな水着買おうかな…。』
そんな事を考えているうちに、アリスはいつの間にか眠ってしまった。
翌朝2号に散歩に行きたいと起こされるまで、グッスリと。
『気持ちいいねー。』
「ワンワン!」
2号と一緒に家を出て、向かったのはあの公園。
思えば早朝に走るのは初めてだ。
新緑の季節の早朝、少し湿度は高いけれど澄んだ水に包まれるような心地よさがある。
きっと今日も天気は良くなるのだろう。
公園に入り2号を自由にするが賢い2号はなぜかこのストバスコートから離れずにチョロチョロと遊びまわっている。