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君と僕とが主人公LS

第7章 6月 II


練習の後、スポーツバッグに2号を隠して電車に乗る。
アリスの家は自分の降りる駅の一つ前。
定期があるから金額的には全く問題はないし、最近は2号を送り届けた後は一駅分歩く事にしていた。
電車を降り、人通りの少ない住宅地に入った所でバックから2号を出してやる。
2号もすっかりアリスの家を覚えたらしく、楽しそうに黒子の前を歩いていた。


「そういえば、青峰君もこの駅でした。」


かつてのチームメイトで相棒だった。
だから帰りもたいてい一緒で、いつもバスケの話をしていた。


「懐かしいです。」


何が?と2号が見上げており、黒子はその頭をワシワシと撫でて誤魔化した。
もうすぐアリスの家に着く。
インターホンを押そうとすると同時、ドアが勢いよく開いた。


「黄瀬君?!」

「黒子っち…。」


お互い「なぜ?」と目が言っている。
ドアが開いたすきに2号はそそくさと上がって行ってしまった。


『よかった、黒子君ありがとう!』


何についてのお礼なのかわからないが、黄瀬とアリスの間の空気がやたら重たい事だけはわかった。


「黒子っちは知ってたんスか?」

「あの、とりあえずご近所迷惑になりますから。」


上がってもいいですか?と聞いた黒子に、どうぞ、とアリスは少し安心したように言った。
二人の話をまとめると、誕生日だから祝って欲しいと押しかけた黄瀬。
誕生日だから、とそのワガママを聞いたアリス。
そして何故か登場したここには居ない青峰のせいで二人が拗れているらしい。


「黒子っちも覚えてるっスよね、これ。」


黄瀬はそう言うとダークブルーのTシャツを広げた。
どこにでも売っているような普通のTシャツだが、それはたぶん、世界に一枚しかないものだ。


「青峰君にあげたプレゼントです、間違いなく。」


そう言い切れる理由。それはこの小さなアップリケだ。
両の手もとい、ハサミを持ち上げてニコっとしているコミカルなザリガニ。
これは後から慣れないアイロンで貼り付けたものだ。


「どこでこれを?」


アリスは少し困った顔をしている。
そんなに言いにくい事なのだろうか。


『実はね、たまに。本当たまになんだけど。』


ロードワークしている、なんて言いたくはない。
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