第55章 新 6月
火神は買ってきた材料で彼女リクエストのミネストローネを作る準備をしている。
着替えてくる、とアリスは二階の自室に真っ直ぐに上がって行った。
『じゃあちょっと出てくるね。』
黒子君が来たらよろしくね、とリビングに顔を出したアリスは言った。
「なんだよお前まだ走ってんのか?」
『まぁね。』
Tシャツにハーフパンツ、玄関のボールにかけられていたパーカーを羽織ったアリスは、スマホから伸びるイヤホンを耳に繋ぐとアパートを駆け出して行く。
全く、と彼女を見送った火神は優しい溜息をついた。
帰国して来たばかりの頃とはまるで違う、自分のよく知っていたアリスに戻っている。
やっと見たかった本当の彼女の笑顔が見られた様な気がする。
だから自分も彼女からその笑顔がまた無くなってしまう様な事がないように、今は美味しいミネストローネを作っておこうと火神はキッチンへ戻った。
軽くランニングをしながらいつもの公園へ向かう。
イヤホンから流れるアップテンポな曲につられて、走る速度も上がってしまう。
「おせーよ。」
『走って来たからセーフ!…ダメ?』
自分の前まで走って来たアリスは、イヤホンを外してキラキラの笑顔で首を傾げる。
そんな顔で、そんなに可愛い仕草をされては例え待たされるのが何十時間だったとしても許してしまえそうだ。
「いいからやるぞ!」
『うん!』
ポーンと投げられたボールを受け取ったアリスは、スーッと息を吸い込むとキリッとした目付きに変わった。
それに気が付いた青峰は、ニヤリと口元を緩ませる。
「来いよ。」
『今日こそは参ったって言わせてやるっ!』
金曜の夜はこの公園で青峰とバスケをする。
時間にしたら1時間ちょっとなのだろうが、お互いに手を抜く事なく本気でやり合う。
夕食前に会っているのは、二人共バスケをするのが楽し過ぎて空腹にでもならないと止められないからだ。
暑い!とパーカーを脱ぎ捨てたアリスは、これが今夜の最後になるだろう勝負を挑む。
トントンとゆっくりとしたドリブルで青峰の動きを見ていたアリスは、上がっている息を整えようと大きく空気を吸い込んだ。
そして得意のハンドリングを披露する。
細かく連続して起こされるフェイクや鋭い切り返し、ドリブル速度の変化。